研究課題/領域番号 |
19K04595
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
酒井 俊典 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (90215591)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | グラウンドアンカー / 緊張力 / 破断 / 曲げ変位 / 維持管理 / 実物大試験 / 地震 / 豪雨 |
研究実績の概要 |
急峻な地形を呈する我が国において,自然斜面や切土のり面の安定化を図る目的で,グラウンドアンカー工(以下,アンカー)が数多く施工されてきている。アンカーは,1957年に我が国に導入されて60年が経過し,二重防食が義務づけられた新タイプアンカーとなってからでも30年近くが経過している。アンカーは,地震時や豪雨時の斜面変状に対して大きな抑止効果を発揮している事例が多数見られ,急峻な地形を示す我が国にとって有効な抑止構造物の一つである。しかし,維持管理が十分でないアンカーにおいては,テンドンの引抜け・破断,クサビの損傷,あるいはアンカー頭部の落下や飛出しなど,外力を受けた場合に問題が発生するアンカーが散見されているようになってきている。アンカーは,数百kNの緊張力を作用させることで斜面・法面の安定性を保持する抑止構造物で,常時大きな緊張力が作用した状態であるため,地山変状等の外力の増加や,アンカーの劣化の進行に伴いアンカーが破断すると,アンカー頭部あるいは受圧板が落下し,場合によってはアンカーテンドンが飛び出すことで第三者被害につながる可能性が考えられる。従来のアンカーの破断に対する評価は,アンカーに作用する引張り強度を基に行われており,実際に施工されている地山等で見られる地すべり等の変状に起因した,地盤内に発生する曲げやせん断に対する影響についての評価は全く行われていない。本研究では,地すべり等の地山変状を想定し,現在まで考慮されていないアンカーに曲げ変位等が作用した場合のアンカーの破断特性を,実際の現場状況および実物大試験装置により新たに明らかにするとともに,この破断特性を考慮に入れたアンカー破断時に有効な対策手法の開発を行うものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
地震,豪雨によりアンカーに損傷が発生し,管理者の了解が得られ調査を継続している地点においてアンカーの破断特性の違いについての評価を行った。地震においては,2007年から2016年までの各地で発生した震度5強以上の直下型地震を対象に,地震の揺れによるアンカーの破断状況についてとりまとめた。その結果,地震によるアンカーの破断は,崩壊を伴うのり面と明瞭な損傷が認められないのり面で確認された。破断形態は,一部でせん断破断が確認された。また,アンカーは,引張り破断の理論伸び量より小さい変位量で破断した可能性が認められた。地震後のアンカーの荷重観測を行った結果,余震等に対してアンカーの荷重増加や破断の進行は認められず,のり面は一定程度の安定性を有していることが確認された。地震動とアンカー破断の関係について,簡易予測式による換算最大加速度が580cm/s2以上の箇所で,アンカーに破断が発生したことが確認された。豪雨によるアンカーの破断は,豪雨による地盤の地下水位上昇に伴う地山変状によってすべり面に曲げやせん断の作用が加わることで破断が見られることを確認した。これら破断特性の結果を基に,実物大アンカー試験装置を用い,地すべり挙動を考慮した曲げ変位を与えた実験を行った。実験では,3種類の定着荷重(0.4Tus,0.6Tus,0.9Tys;Tus:引張り強度,Tys:降伏強度)について行った結果,いずれの場合もアンカーの引張り強度以下で破断するとともに,待ち受け効果を期待し定着荷重が低めに設定されている場合には,さらに低い緊張力で破断することが明らかとなった,以上より,当初想定している通りの進捗であり,おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の現地調査より,地震および豪雨等によりアンカーに曲げやせん断の外力が作用すると破断に至ることが明らかになった。また,実物大試験装置よりアンカーの曲げ変位が作用した場合,従来のアンカー破断の評価に対して用いられる引張り強度より低い荷重で破断することが明らかとなった。この結果を受けて,2020年度には数多くの規格が存在するアンカーに対する破断状況を明らかにするため,ナット定着方式,くさび定着方式のアンカーについて検討を行う。検討にあたっては,実物大アンカー試験装置を用い,3種類の定着荷重(0.4Tus,0.6Tus,0.9Tys;Tus:引張り強度,Tys:降伏強度)について,曲げ変位を与えた場合のアンカーの破断特性を検討し,アンカー規格の違いによる破断の差異を明確にする。使用するアンカーの構造は,①アンボンドチューブ内のPC 鋼より線が防錆油で充填されているタイプ,②PC 鋼より線全体がエポキシ樹脂でコーティングされシース管に挿入されているタイプ,③PC 鋼より線1 本毎に塗装被覆されポリエチレンで被覆されているタイプで,③ポリエチレン被覆が1 重のタイプ,および④2 重のタイプ,⑤防錆油を充填した被覆材により全長が二重防食構造となっているタイプで,これら被覆状態の異なる5種類を対象に検討を行う。加えて,調査を継続している現場において,破断が見られたのり面におけるアンカー荷重のモニタリング調査を継続し,地山変状とアンカー荷重との関係を明確にする。
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次年度使用額が生じた理由 |
大型実験装置で使用するアンカーの経費が予定より安かったため,および旅費経費が予定よりかからなかったため。本年度は,大型実験装置でのアンカー実験回数を増やす予定のため,これにあてる計画である。
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