研究課題/領域番号 |
19K04615
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
竹林 洋史 京都大学, 防災研究所, 准教授 (70325249)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 土石流 / 泥流 / 数値シミュレーション / 避難 / 構造物 / 不飽和 / 細粒土砂 / 土砂災害警戒区域 |
研究実績の概要 |
近年,高強度豪雨によって発生する表層崩壊に起因した土石流・泥流による土砂災害が毎年のように発生している.土石流・泥流から市民の生命と財産を守るためには,土石流・泥流の流速・流動深,流出土砂量,土砂の氾濫範囲などの土石流・泥流の流動特性を土砂災害対策施設の設計や住民の避難のために必要な精度で評価することが重要である.本研究は,これまで経験則を用いていた泥流や細粒土砂を高濃度に含んだ土石流の構成則を理論的に構築する(課題1)とともに,土石流・泥流による構造物の破壊機構(課題2)および不飽和給水条件における土石流・泥流の発達過程(課題3)を解明し,土石流・泥流の数値シミュレーションモデル(図3参照)の適用範囲の拡大および予測精度の向上を行う.さらに,数値シミュレーションによる土石流・泥流の流動特性を用いて土石流・泥流の危険度の空間分布を評価し,土石流・泥流危険地域における家屋ごとの土石流・泥流からの避難方法を提案(課題4)する. 令和元年度は,上述の課題の内,課題1の「細粒土砂を高濃度に含んだ土石流・泥流の構成則の理論的構築」を実施した.一般に,土石流に含まれる土砂の粒度は広く,直径数メートル程度の巨礫から1mm未満の細粒土砂まで含まれる.これらの内,細粒土砂の一部は水と混合することにより液体として振る舞う.そこで,細粒土砂の相変化(液化)を考慮し,細粒土砂は粗粒土砂の間隙流体に含まれると考え,水よりも高密度の流体として間隙流体を扱う構成則とした.その結果,土石流による河床の浸食や土砂の堆積が発生しない平衡勾配の値が小さくなり,上流域での土石流の発達が促進されるとともに,土石流がより下流域まで流動し,氾濫・堆積した.この結果は,細粒土砂を多く含む土石流現象によく見られる現象であり,実現象をより高精度に表現できる解析モデルとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予期しない問題などが発生しなかったため.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は,課題2「土石流・泥流による構造物の破壊機構の解明」と課題3「不飽和給水条件における土石流・泥流の発達過程の解明」を実施する.また,2021年度は,課題4「土石流・泥流危険地域における家屋ごとの土石流・泥流からの避難方法の提案」を実施する. 課題2は,土石流・泥流被災地で構造まで破壊されている構造物はほぼ全て木造家屋であることに着目し,木造家屋の破壊条件を現地調査と数値シミュレーションによって検討する.ここで,半壊・全壊の状態を評価するため,家屋全体を一つの構造物として捉えるのでは無く,家屋の局所的な破壊条件を検討し,半壊・全壊の状態を評価できるようにする.課題3は,様々な降雨継続時間,降雨強度,地盤の透水特性の条件で,不飽和透水解析で得られた地盤内の水の飽和度を用いて土石流・泥流の数値シミュレーションを実施し,降雨特性・地盤の透水特性が土石流・泥流の流動特性に与える影響を明らかにする. 課題4は,2018年の広島での土石流被災地と2013年の伊豆大島の泥流被災地を対象とし,2019年度と2020年度に得られた知見を考慮した土石流・泥流の数値シミュレーションを実施し,表層崩壊の発生から宅地までに土石流・泥流が到達する時間,土石流・泥流の氾濫範囲,宅地内における土石流・泥流の流速と流動深の時空間的な分布から,土石流・泥流危険地域における家屋ごとの住民の避難方法を提案する.具体的には,鉛直避難が有効な家屋,土石流・泥流が流れてこない区域の近隣家屋への水平避難が有効な家屋等を示すとともに,豪雨中に危険を冒してまで避難しなくてよい区域の家屋の場所も示す.
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