研究課題/領域番号 |
19K04618
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
小林 健一郎 神戸大学, 都市安全研究センター, 准教授 (60420402)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 超多数アンサンブル降雨・洪水予測 / 洪水ダム / 分布型降雨流出・洪水氾濫モデル / 高潮・河川洪水複合風水害シミュレーション / 避難行動モデル |
研究実績の概要 |
研究実績の概要は各項目について以下のようである. 超多数アンサンブル洪水予測:新潟県笠堀ダム流域を対象として1600アンサンブル降雨予測を入力として,アンサンブル洪水予測を実施した.具体的には,笠堀ダムへの流入流量を1600予測し,これに基づき笠堀ダムが洪水時操作,異常洪水時防災操作が必要となる確率を半日程度のリードタイムを持って推定することができた.こうした確率情報は,具体的なダム操作に向けた補助情報となりえると考える.他方,1~3時間程度のリードタイムを持った超高精度な洪水予測についてはまだ困難な点も見られたため、継続的に研究が必要である.全体としては,決定論的でない確率論的洪水予測の重要性を示すことができた. 高潮・河川洪水複合風水害シミュレーション手法の開発:流域レベルで風の影響を考慮して降雨流出過程を再現するための分布型降雨流出・洪水氾濫モデル,風の影響を考慮して沿岸域浸水現象を再現するモデルを開発した.流出・氾濫モデルについては,堤内地流は2次元浅水流方程式,河道流は常射流混合流れを再現可能なFlux Difference Splitting法に基づく一次元不定流方程式,山腹斜面については,簡易型2次元不飽和浸透流方程式を基礎方程式としてモデル開発を行った.沿岸域浸水モデルについては同じ2次元浅水流方程式を高解像で適用している.結果として,風の影響を考慮した流出現象,吹き上げ,吹き寄せを再現することが可能となった.風の影響については一定程度あることが示唆されたが,これが避難において影響が大きいと考えるべきかは避難行動モデルを用いてさらに検討が必要である. 避難行動モデル:マルチエージェント避難行動モデルを開発し,芦屋市沿岸域,三宮地下街などに適用した.避難速度への混雑の影響についてはファジー推論に基づく速度式などを新規に提案し避難行動再現性を向上させた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の進捗状況は以下の通りである. 「(目標)数百~数千アンサンブル降雨を利用した十分なリードタイムを持った洪水予報:平成23年7月新潟・福島豪雨を対象にアンサンブル洪水予測により異常洪水時防災操作が必要となる確率を半日程度のリードタイムを持って推定できることを示す(2019年度).」については,予定通り実施され,研究成果は国際ジャーナルに受理された.ジャーナルでは,非常に狭い領域の洪水現象を再現することが超多数のアンサンブル降雨予測により可能となるケースがあり,降水・洪水過程は非線形現象で決定論的予測は難しいものの,確率論的予測では一定レベルの予測ができる可能性が示唆された.これにより半日程度のリードタイムが稼げる場合,避難行動に移る際にある程度の余裕を持つことが可能であることが示唆された. 「(目標)高潮・河川洪水複合風水害シミュレーション手法の開発:内陸部浸水計算において風の影響を考慮する必要性について明らかにする.内陸部氾濫現象においても,吹き寄せ,吹き上げが発生することを示す(2019年度).」については,荒川流域と沿岸域を対象として,風の影響を考慮可能な分布型降雨流出・洪水氾濫モデルと浅水流方程式を基礎方程式とする浸水モデルを構築した.これにより流出現象への風の影響は一定程度であること,また内陸部氾濫現象においても吹き寄せ,吹き上げが発生しえることが示唆できた. また,これらの目標に加えて,避難行動モデルの開発も進展しており,兵庫県芦屋浜における沿岸災害からの避難行動モデル,三宮地下街における内水氾濫の際の避難行動モデルなども構築した.芦屋浜の沿岸災害からの避難については水工学論文集(講演会)で研究成果の公表をしている. このように全体として2019年度は研究目標を着実に実施することができた.
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今後の研究の推進方策 |
来年度の研究推進方策は以下のようである. (1) 2020年度は,多数アンサンブル洪水予測については,平成27年9月関東・東北豪雨を対象にアンサンブル洪水予測により避難勧告が必要となる確率を半日程度のリードタイムを持って推定できるかの検証をする.新潟県笠堀ダムのケースでは確率的洪水予測について積極的な結果を得たが,他の事例についても積極的な結果を得ることができるか検証する. (2) 高潮・洪水同時生起複合風水害については,複合災害がもたらす被害の連鎖をどのように軽減することができるかを明らかにする.例えば,三宮地下街において,内水氾濫と高潮氾濫が同時生起した場合の,浸水範囲の変化を推定し,複合災害がもたらす被害の増幅について検討する. (3) 避難モデルについては,住民の最適避難行動の分析のための避難行動モデルの開発を継続する.避難勧告発令の確率が推定できる場合や,複合風水害において十分なリードタイムがある場合に,流域住民の最適避難が可能となることを数万人規模の大規模避難数値実験等により定量的に明らかにする. (4) 避難モデル検証のための現地歩行実験を実施し,避難シミュレーション上では可能であるが,現実的には難しい避難における課題を抽出する.また,行政の河川・沿岸管理部署,防災担当部署,現場管理会社と意見交換し,シミュレーション結果が現場で適用可能になるための方策を検討する. (5) 研究成果については,水工学論文集,国際ジャーナルなどに随時公表していく.
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次年度使用額が生じた理由 |
これまでの研究成果を国際的にも公表し,その後にさらなる研究展開をしたかったが,予想以上に厳しい意見(査読等)が多かったため,研究自体は進んだが,これにもとづく国内学会での研究成果の公表や,避難行動の現地実験などもすべて後ろ倒しになった.現在は国際的な成果公表も一段落ついたので,次年度は計画通りすすめていく.
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