研究課題/領域番号 |
19K04618
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
小林 健一郎 神戸大学, 都市安全研究センター, 准教授 (60420402)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 超多数アンサンブル / 洪水予測 / 避難勧告 / 風水害 / マルチエージェントモデル |
研究実績の概要 |
超多数アンサンブル洪水予測について,令和2年7月九州豪雨における球磨川洪水事例を対象に実施した.気象研究者による同豪雨の1000アンサンブル実験を入力として,貯留関数法+カルマンフィルターによる,球磨川市房ダム,川辺川ダム(仮想)の流出計算,その後,人吉市を含む球磨川市街地の洪水流出・浸水計算を実施した.結果として,アンサンブル平均が現地の状況を一定程度再現できることがわかった.また,半日程度のリードタイムを持って,避難勧告を発令できる可能性も示した.他方,平成27年9月関東・東北豪雨についての100アンサンブル洪水予測については,降雨予測が必ずしも線状降水帯を十分に再現できていないことが見て取れ,洪水予測精度についても十分ではなく,過小予測傾向があった. 洪水氾濫に風が与える影響については,荒川流域を対象に実際の風速・風向を入力とした流出・浸水計算を実施した.これにより,風が一定方向に吹き続ける場合は,浸水過程(速度・範囲)に与える影響が強いものの,風向が変わる場合は,影響が全体的に平均化されることがわかった. 避難については,昨年度まで開発してきた一次元道路ネットワーク上で避難所に向かって最短距離を選択して歩行するという行動モデルに加えて,三宮地下街などで2次元的に人々が混雑度などを指標に避難をするモデルを開発した.三宮地下街では歩行行動の観察を実施し,行動者の初期位置の不均一性が避難時間に与える影響についても分析した. 研究成果については,水工学論文集,国際ジャーナルなどに投稿予定である
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の進捗状況は以下の通りである. 「(目標)数百~数千アンサンブル降雨を利用した十分なリードタイムを持った洪水予報」については,予定通り実施された.令和2年7月九州豪雨における1000アンサンブル球磨川洪水予測については,前年度に実施した平成23年7月新潟・福島豪雨における笠堀ダムを対象とした結果より洪水予測手法自体は優れたものであると考えている.1000アンサンブル予測については半日程度のリードタイムで避難勧告等を発令できる指標とできることが想定された.他方,平成27年9月関東・東北豪雨については,100アンサンブルによる洪水予測数値実験で,100アンサンブル程度だと必ずしも十分に線状降水帯等を再現できていないことが想定され,結果の精度は不十分であることが示唆された. 「(目標)高潮・河川洪水複合風水害シミュレーション手法の開発」については,荒川流域を対象として,前年度に風の影響を考慮可能な分布型降雨流出・洪水氾濫モデルと浅水流方程式を基礎方程式とする浸水モデルを構築したが,今年度は現実の風向・風速をモデルに入力して数値実験したところ,風の影響が平均化されて小さくなることが見て取れた.他方,三宮地下街については,管理者との議論などを通じて,高潮・洪水氾濫に対する対策がかなり取られていることがわかった. また,避難行動モデルの開発については,三宮地下街における新規の2次元避難行動モデルなども構築した. しかしながら,コロナ禍で関係各位と十分にコミュニケーションが取れないこと,出張も難しいこと,また,学術雑誌への投稿も苦戦したことなどから全体として2020年度は研究がやや遅れていると判断している.
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今後の研究の推進方策 |
来年度の研究推進方策は以下のようである. (1) 超多数アンサンブル洪水予測については,平成23年7月新潟・福島豪雨/令和2年7月九州豪雨および洪水(1000アンサンブル)については積極的な結果,平成27年9月関東・東北豪雨および洪水(100アンサンブル)については消極的な結果を得た.積極的な結果については,少なくとも避難にかかわる情報を確率的に提供することが可能であるということ,消極的な結果については,洪水予測が過小傾向にあり,危険側の情報提供になってしまう可能性が高いということを意味する.こうした情報が避難においてどのように活用できるかについて2021年度はまとめをしていく. (2) 高潮・洪水同時生起複合風水害については,荒川流域を対象に風が流量増大に与える影響,浸水範囲の変化などを分析することができた.現実の風速・風向を考えた場合,浸水範囲の変化は急激なものではないが,それでも各地先の居住者にとっては影響があるものと考えられるため,降水だけでなく風の影響も考慮した場合の避難行動の在り方についてまとめていく. (3) 避難行動(およびモデル)については,住民の最適避難行動についてまとめを行う.これまで避難勧告発令の確率が半日前程度に推定できる可能性が見て取れた.こうした状況では,避難行動モデルを用いて浸水時の急激に変化する状況下での避難を検討するというよりも,十分に時間がある中で,災害弱者などの状況も考慮しながらどのように最適避難するかが鍵となる.災害前,災害時の避難について,状況の変化なども分析しつつ,その在り方について検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
これまでの研究成果を国内・国際学会等にも公表し,その後にさらなる研究展開をしたかったが,コロナ禍でほぼオンライン開催で旅費が不要,かつ参加費も減額された.同様に避難行動モデルを開発するための必要な現地踏査,実験などもすべて実施が難しかった. また,ジャーナル投稿についても不自由な状況があり,かつ富岳コンピュータなどの共用開始が今年度後半だったことなどもあり,遅れている.以上の理由で次年度使用が生じた.
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