研究課題/領域番号 |
19K04621
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
田村 隆雄 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 准教授 (40280466)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 流域治水 / 森林 / 洪水低減機能 / 林業 / 自伐型林業 / 遮断蒸発 / 地表面粗度 |
研究実績の概要 |
本研究は,流域治水の具体的なメニューとして森林の洪水低減機能を後期に向上させて活用するための基礎的な方法論を構築することにある.そのため特徴ある森林施業を行っている林地を対象に大雨時の水文観測と流出解析を行って,機能評価を行う. 初年度は解析データ取得のために,徳島県那賀町に位置する橋本林地(スギ・ヒノキを中心とした針広混交林,択伐式自伐型林業を実施),徳島県牟岐町に位置する樵木林地(ウバネガシを中心とする照葉樹林,樵木林業を実施)等において,雨量計や水位計を設置して大雨時における水文観測を整え,観測を実施した.残念ながら注目に値するような大雨を観測することはできなかったが,東日本に大きな被害を出した台風19号に伴う,まとまった降雨イベント(樵木林地で総雨量134mm,最大時間雨量33.6mm/hr)の雨量・水位データを取得することができ,流出解析を実施し,各林地の基本的な流出特性を評価することができた. 流出解析は,上に挙げた林地の他,申請者がこれまでに水文観測を実施してきた複数の林地,例えば一般的なスギ人工林(一斉植林・皆伐)である白川谷森林試験流域(徳島県三好市)と奥野井谷森林試験流域(徳島県吉野川市),コナラ・アベマキを中心とした落葉広葉樹林である横野谷森林試験流域(徳島県美馬市)を含めた5つの林地で実施した. 地質的な影響を除外して各林地の洪水低減機能を地表面流分離直列2段タンクモデルを用いて評価した結果,一般的なスギ人工林と比べて択伐式林業を実施している橋本林地の機能が高いことが示された.その理由としては低い間伐率による大きな降雨遮断量と,林床植生等による高い地表面粗度がもたらす地表面流出成分の流れにくさによるものと推定され,森林施業の工夫による森林の洪水低減機能の向上が可能であると推察された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度の研究内容は,研究対象林地の選定,水文観測機器の設置,および洪水時の水文資料の蓄積という3つであったが,解析に使用可能な規模の降雨イベントが10月に発生(令和元年台風19号)し,それを捉えて流出解析まで実施することができた.そして洪水流出特性と森林施業との関連性について基礎的な考察まで実施することができた. 研究申請書に記載した2年目の研究内容にまで踏み込めたことから,当初の計画以上に進展していると判断する.ただし森林の施業とその洪水低減機能の詳細な評価については,より多くの水文データの蓄積と解析が必要であると判断している.
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今後の研究の推進方策 |
初年度に引き続き,水文観測を実施し,解析データの蓄積に務める.複数の洪水イベントを対象とした流出解析を行い,各林地の自然環境特性や施業方法と洪水流出特性の関連性について定量的な評価を進める.特に林地の個性を表す特性量(樹木量,樹冠密度,林床植生量,土壌種類,地質等)が洪水流出量にどのような影響を与えているかについて,それらを表現するモデルパラメータの感度分析等を行いながら,詳細な考察を行い,3年目に予定している,30年程度で可能な機能向上策や,流域治水への活用方法に必要な知見を得る.
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次年度使用額が生じた理由 |
主な理由は物品費の使用額が当初予定より少なかったためである.具体的には,当初計画では3か所の研究対象林地にそれぞれ,水文観測機器(雨量計,樹冠通過雨量計,水位計)を設置する予定であった.しかし対象地の1カ所(橋本林地)については過去に使用していた機材の一部を再利用することができたので購入を見送った.そのため予定していたより物品費の使用額が減少した. 初年度の調査から,新たに研究対象地に加えたい林地があるので,その林地に設置する観測機器購入費に充てることを計画している.あるいは初年度の研究成果から,林床到達雨量を観測する装置の追加を検討している.これらは研究内容を深めることに繋がるので,妥当であると判断している.
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