本研究は、長良川・揖斐川流域の河川等を対象にして、魚類などの水棲生物の生活史のボトルネックとなるダムや堰、落差工などの影響を、環境DNAによる生物の縦断的な連続性の観点から、新たに魚道機能の評価、生息場の改善に繋げることが目的である。本研究は以下の三本柱により構成され、研究実績は以下のようである。 (1)流域基盤データと生物生息情報のGIS環境の統合化: 洪水履歴に関連した河川の縦断的な連続性を統合GISにより、被災した長良川水系の吉田川および津保川等の魚道施設の修復状況等の時系列的な変化を可視化した。これらにより、洪水履歴と被災箇所、その被災に至る主要因(複数項目)等を抽出した。 (2)魚道および周辺の微地形を考慮した魚類生息場の健全度評価: GISデータおよび土木学会の(iRIC-Nays)数値モデルを利用して、津保川の洪水氾濫解析、新境川、牧田川の流砂を考慮した洪水流解析を実施した。これらをもとに、洪水時の避難場所としての空間機能を抽出し、瀬と淵の微地形のみならず河道線形、河道貯留などとの関係性を明らかにした。さらには、流域治水にまで広げてグリーンインフラによる多機能化を図りながら、流域全体の健全度を高めることなどについて検討した。 (3)水域の落差と環境DNAメタバーコーディングによる生物情報: 採捕調査および採水による環境DNAメタバーコーディングの魚類相推定(在来種・希少種・外来種など)の両方により、魚類の生息分布を継続的に把握している。横断構造物、河道改修の有無や季節ごとによって、生息分布が大きく異なることなどが明らかとなった。さらには、河道改修方法(ピーク流量を低減させてゆっくる流す技術など)は、多自然川づくりとの親和性が高く、治水上のリスクも低減させるため、流域の生物多様性を高めることなどについて検討した。
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