研究課題
日本国内に存在する種々の土木インフラは老朽化が進み、維持管理に要する費用が加速度的に増加すると予想されており、早期の異常検出手法が求められている。本研究では、土木インフラの中でも空港、堤防に着目し、それらの定期測量の負担を大幅に軽減することを目的とする。上昇軌道(南→北)画像、下降軌道(北→南)上で取得された衛星合成開口レーダ (synthetic aperture radar: SAR) 画像に加えて、電子基準点等の外部データを利用し、対象地物の三次元変動速度を推定する技術を確立する。また、相対座標系及び絶対座標系での土木インフラの垂直・水平変動を推定する方法を推定する方法を確立する。2020年度は、三次元変動速度を推定する際に利用する際に仮定する観測データに対する重みの影響を検討した。衛星SAR画像と電子基準点のGPSデータに混入している誤差の大きさを観測値から推定し、それを観測方程式における重みとして取り込んで再度観測方程式を解くことで変動速度を推定する手法を検討した。特に衛星SAR画像から得られる変動速度とGPSデータが示す変動速度の間で整合しない状況が発生する時に、単に三次元変動速度を推定するだけでなく、対処方法を検討した。応用事例として、空港としては関西国際空港、新潟空港を取り上げた。また堤防に類似する構造物として、高速道路周辺の法面や周囲の山地も対象に提案手法の有効性を検討した。いずれの地域においても、より安定性の高い三次元変動推定結果が得られ、特に高速道路周辺の解析では地滑り対策に活用できる見込みが高い結果が得られた。
2: おおむね順調に進展している
関西国際空港の解析では、三次元変動推定の際に使用する各変動量(衛星SAR由来、GPS)の重みを適切に計算することで推定精度が向上することが確認された。また新潟空港の解析では、 解析対象地域で実測された水準測量データと、周辺に設置された国土地理院の電子基準点データが示す変動に整合性が見られなかった。そのため鉛直方向の電子基準点データを除外して観測方程式を構成し、三次元変動速度を推定することで、変動速度の推定精度を改善できた。新名神高速道路の盛土については、条件が良ければ盛土内の圧縮沈下量の違いまで推定できること、時系列SAR解析点が消失することで地震等の大きな変動の発生が確認できること、そしてその大きな変動の方向は差分干渉SAR解析によって推定可能であることが判明した。また武雄JCTの解析については、 地滑りによる変動を検知したことが示唆された。本研究では、土木インフラの維持管理業務に役立てることを念頭に時系列SAR画像から変動速度を推定したが、上記のように空港や高速道路周辺の法面や周囲の山地の解析において、実務に応用できる可能性を示唆できた。その点で、順調に進捗していると考えられる。
高速道路周辺では甚大な影響を及ぼす地滑りが各地で発生しており、本研究の成果の実務への応用は喫緊の課題と言える。特に、地滑りが発生した地域における地滑り発生前の変動速度分布図は高速道路会社の業務にとって極めて有用であることが分かった。今後は、高速道路運用会社と連携を図りながら、時系列SAR解析の結果の信頼性を評価し、少しずつでも実務に反映できるように発展させていく。
衛星画像の購入を見送り、また旅費も発生しなかったため、次年度使用額が発生した。今後は主に複数地点での解析のために多数枚の衛星画像を購入予定である。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
ISPRS Annals of the Photogrammetry, Remote Sensing and Spatial Information Sciences
巻: V-3-2020 ページ: 165, 172
10.5194/isprs-annals-V-3-2020-165-2020