日本国内に存在する種々の土木インフラは老朽化が進み、維持管理に要する費用が加速度的に増加すると予想されており、早期の異常検出手法が求められている。本研究では、土木インフラの中でも空港、堤防に着目し、それらの定期測量の負担を大幅に軽減することを目的とする。上昇軌道(南→北)画像、下降軌道(北→南)上で取得された衛星合成開口レーダ (synthetic aperture radar: SAR) 画像に加えて、電子基準点等の外部データを利用し、対象地物の三次元変動速度を推定する技術を確立する。また、相対座標系及び絶対座標系での土木インフラの垂直・水平変動を推定する方法を推定する方法を確立する。 2021年度は、土木インフラ業者の通常業務での活用を意識して、高速道路周辺で発生した土砂災害に関連し、被害状況の迅速な把握及び事前兆候の把握の可能性を検討した。具体的には、2019年8月に地滑りによる土砂で約1年間運用が停止された長崎自動車道武雄ジャンクション (JCT) 周辺を対象地域として取り上げた。上昇軌道画像と下降軌道画像から得られる変動速度を推定した。高速道路に沿って,高速道路から一定の幅を想定したグリッド内での平均累積変動量を算出した.その結果、土砂災害が発生した武雄JCT周辺の山地に於いて、土砂災害発生前から地盤変動が進行しつつあったことが確認できた。衛星SAR画像自体は入手できる時間間隔が数か月に及ぶこともあり迅速性に欠けるものの,現地では確認が困難な広域に亘る高速道路周辺の山地の変動を長期間に亘りモニタリングするには適切な手法であると判明した。
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