高齢運転者の交通事故が増加しており、路面標示などの視覚に訴える対策が欠かせない。筆者は、特定の視点からは立体的に見え、それ以外の視点からは歪んだ画像に見えるという路面立体標示の開発に関わってきた。その知見を踏まえ、前方確認や安全確認を促すには、進行方向の路面に文字を立体的、つまり縦横比1:1に標示する立体文字標示が可読性向上に有効であることが分かった。そこで、本研究では信号のない横断歩道での一時停止を促す路面標示を対象として、立体文字標示の開発を行った。 2019年度は、立体文字標示のデザイン案を検討した。立体文字標示の内容や設置位置、横断歩道の強調および赤色舗装が横断歩道での停止意欲向上にどの程度効果があるかを、ドライビングシミュレータを用いて検証した。 2020年度は路面標示のメッセージ内容と、路面標示出現のタイミングの詳細検討を行った。学生を対象に実験を行った結果、メッセージ内容は「歩行者優先」の評価が高かった。出現タイミングは、路面標示の設置数は数が多いほど停止意欲は高まるが、設置位置が直前だと効果が弱まることが分かった。 2021年度は被験者に高齢者を加えたドライビングシミュレータを用いた評価実験およびアイトラッキング実験を行った。その結果、高齢者と若者とで評価の違いは認めらないこと、交差点付近では路面標示に注視し、歩行者への注視が減ることを明らかにした。 2022年度は現行の路面標示と立体文字標示の種類別に運転者視点による可読距離の実測実験を行った。「歩行者優先」では、立体文字標示の可読距離は39mであり、現行標示の23 mより16mのよりも大きい結果であり、立体文字標示の方が可読性に優れていることを確認できた。また、実物の立体文字標示による一時停止意欲の評価を行った結果、立体文字標示は読みやすく、止まる意欲が高く、邪魔にならないことを明らかにした。
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