研究課題/領域番号 |
19K04644
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
鹿田 正昭 金沢工業大学, 工学部, 教授 (50121249)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 地上型レーザスキャナ / BLK360 / 点群データ / 最小二乗平面 / レベルクォーター / 傾斜角 / CloudCompare |
研究実績の概要 |
本研究では地上型レーザスキャナを用いた測量の効率化を図ることを最終的な目的としている。今年度は屋内用レーザスキャナ(BLK360)を用いた基礎的な解析を行った。従前の研究では、地上型レーザスキャナ5機種用いて実務に近い環境での実証実験および屋外環境下でのモデル実験を実施した。実証実験では複数のレーザスキャナから同一の地点を異なる時期に観測し、機種ごとに存在する観測値の較差や再現性について調査した。モデル実験では、複数のレーザスキャナで同一の対象物を観測し、対象物の距離や傾斜角が観測値に与える影響を調査した(令和元年度秋季学術講演会で報告)。 屋内用レーザスキャナ(Leica BLK360)によって観測対象となる対象物の傾斜角や距離を変えながら取得した複数の点群データを用い、最小二乗平面の算出による比較を行ってレーザ計測による平面の特徴を検証した。これは前年度報告の地上型レーザスキャナの検証方式に同じである。 本年度は屋内用レーザスキャナ(Leica BLK360)と専用ソフトウェアを使用して実験を行った。実験は金沢工業大学 扇が丘キャンパス内の廊下および地下道にて実施した。可能な限り周囲の環境を一定にするために屋内での実験とした。スキャナを据え付ける器械点から10m,20m,30m,40m,50m,60mの距離にあたる位置をトータルステーションで正確に計測し距離を定めた。また案内ボードには下げ振りを取り付け、位置決めは可能な限り正確に実施した。案内ボードにはレベルクォーターを取り付け、正確に傾斜角を計測・設定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
区分を「やや遅れている」とした理由は、新型コロナ感染症のため計画していた多くの実験が中止せざるを得なかったためである。なお、研究成果の発表は進捗したところまでを遠隔で発表した。 解析に使用するデータはキャンパス内の廊下および地下道でそれぞれ取得された。対象物とした案内ボードの平面部分の点群データである。案内ボードはレーザの入射角を変化させるため、90°を垂直として60°および30°の傾斜角を設定した。データ抽出の対象とする面積を統一するため、レーザの入射角が最も浅くなる30°の際の案内ボードの投影面積を基準として点群データの抽出を行った。抽出した点群データを CloudCompareを用いて可視化した。空間上の平面は3点の座標が定まれば求めることができるが、本研究では多数の点群の中から案内ボードの平面部分に存在する点群データを抽出し、最小二乗平面を算出するために必要な数値を計算により求めることで各スキャンデータの比較を行った。 点群の重心は案内ボードの範囲を指定して抽出した点群データの座標値を平均することによって算出した。さらにこの重心の値の標準偏差を算出し、入射角・距離によってどのような変化が見られるか比較した。それぞれの対象物の傾斜角とY軸方向の重心位置の関係を解析した結果、変化が大きい順は最も対象物が傾斜している30°、60°、垂直の90°となっている。この結果から対象物の傾斜角が30°の際は標準偏差の値が大きくかつ大きなばらつきが見られた。対象物が垂直に近づくにしたがって標準偏差の値が小さくかつばらつきが小さくなった。 第3主成分ベクトルは重心と同様の範囲を対象として抽出した点群データを用いてMATLABによる主成分分析を実施し、この値から標準偏差を算出して比較した。 その結果、対象物の傾斜角・距離ともに標準偏差の値およびばらつきに重心の検討と同様の傾向が確認された。
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今後の研究の推進方策 |
算出された重心および第3主成分ベクトルの値から、観測対象へのレーザの入射角が浅くなるにしたがって、またスキャナと観測対象の距離が大きくなるにしたがって観測結果に影響が出ることが数値的に確認された。この点について更に検証を進める。 誤差の要因となり得る「スポット径」および「光の屈折」に関するモデル実験を開始した。Leica BLK360は波長830nmの近赤外線レーザ光を出射するが、この波長の光に対して、昨年度の実験で用いたInGaAs検出器内蔵の赤外線カメラは感度がない。 一方、通常のSiフォトダイオードイメージセンサーカメラ(CCDカメラ、CMOSカメラなどと呼ばれているもので、スマートフォンやデジタルカメラに使用されている)では、センサーとしてはこの波長に感度はあるが、可視光でない光を検出してしまうと写真や動画の画像が人間の見た目と異なってしまうため、故意にフィルターでこの近赤外線領域をカットしてしまっている。したがって、市販のデジタルカメラやスマートフォンで波長830nmの近赤外線のレーザスポット像を撮影することもできない。そこで、赤外線カットフィルターの入っていない近赤外用CCDカメラを新たに購入し、下記の場所・日程・内容でスポット撮影実験を試みた。レーザスキャナと的(まと)の間の距離を22cmとかなり短くしたときの、レーザスポットの像を示す。10 mm × 5 mm程度の大きさのスポットが明瞭に撮影できた。スポットが縦長であり、かつ、レーザスキャナのスキャン方向に長くなっている、という結果は昨年度のレーザスキャナ(RIEGL LMS-Z620)での結果と同じでああった。 今後は露光時間やその他の設定や実験のやり方を最適化して、レーザスキャナの個々のパルスのスポット形状を観察していくことに挑戦していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度(2020年)の実験計画は新型コロナウイルス感染症の感染拡大による制約を受け、補助金の多くを占める学外での実証実験やKIT空間情報プロジェクト支援企業との共同実験ができなかった。また、学会発表(参加予定していた国内での学会および国際会議)は遠隔会議(Zoomなど)により実施できたが、現地に出向いての参加が出来なかったため、旅費等は一切使用することがなかった。同様に、人件費・謝金、その他の項目についても新型コロナウイルス感染症の影響により予定していた支出をすることがなかった。 令和3年度は、スキャナとの距離やレーザの入射角の条件をより細かく設定した追加実験やレーザビームの計測を予定しており、これらの条件が点群データに及ぼす影響について実験および解析をおこなう予定である。 なお、新型コロナウイルス感染症の状況によっては大学からの指示により学内外での活動を休止せざるを得ない場合があり、実験計画については現時点では白紙の状況である。
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