研究課題/領域番号 |
19K04649
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
小嶋 文 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (40637998)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 歩行者 / 交通安全 / 主観的幸福感 |
研究実績の概要 |
歩行者優先の道路整備を推進していくためには,そのような道路整備が利用者である歩行者や沿道住民,さらに自動車運転者にもたらす効果を提示することが重要であると考えられる.本研究では,これらのそれぞれの主体について,歩行者優先の道路整備に関わる主観的幸福感(subjective well being)に着目し,幸福感の向上に関わる要因について検討した. 歩行者優先の道路整備の効果として,主観的幸福の2種類の潮流である,楽しさや快さから得られるhedoniaと,自己実現や望ましい生き方から得られるeudaimoniaへの影響について検討した.アンケート調査の結果から,歩行者にとって日常的に利用する生活道路の質があがることは,hedoniaとeudaimoniaの双方を向上させることが示唆された.また,そのような歩行者を優先する道路整備の計画に積極的に関わる経験は,沿道住民にとってのeudaimoniaの向上につながる可能性が見られ,計画づくりに沿道住民が関わる場づくりの重要性が示された. 歩行者優先の運転行動を取ることは,楽しさや快さから得られる幸福であるhedonia,自己実現や望ましい生き方から得られる幸福であるeudaimoniaのうち,特にeudaimoniaに影響すると考えられる.本研究では,人優先の運転行動である無信号の横断歩道における譲り行動を利他行動とし,この行動が運転手の幸福感を高めることにつながるのか,主にeudaimoniaに着目し,幸福感を醸成し,譲り行動を促進する手法を提案し検証することとした.アンケート調査結果の分析からは,横断歩道での速度抑制策であるハンプや狭さく,および横断歩道での歩行者への譲りに感謝する看板について,自尊心や自律性といった,主観的幸福感に関わる要因を,警察官による取り締まりの場合よりも高くし,譲り行動に影響する可能性が見られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,楽しさや快さから得られる幸福(hedonia),自己実現や望ましい生き方から得られる幸福(eudaimonia)に着目し,社会的に望ましい方向への行動変容の動機付けとなる介入方法の提案,検証を行い,人優先の空間整備,人優先の運転行動を促進する手法を立案することである.これを3点の目的に分ければ,第1の目的は,道路整備形態と歩行者の主観的評価を踏まえて道路空間の質と歩行者,地域住民の幸福感の関連性を検証し,人優先の道路整備の効果を示すことである.2つめの目的は歩行者優先道路への関与(自宅の地先道路の所有意識等)が幸福感に影響を与え,さらに人優先の運転行動に影響するという仮説の検証である.これらの知見を得た上で,第3の目的は「幸福感」を醸成して人優先の道路整備への協力,人優先の運転行動を促進する手法を提案,検証することである.2019年度には,これらの目的の内,交通静穏化対策の実施による歩行者,沿道住民の主観的幸福感の向上に関する知見が得られ,また信号なし横断歩道における対策の違いによる運転車の主観的幸福感の違いについても知見が得られた.これらのことから,研究はおおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
本研究においては,人優先の道路整備,運転行動を推進するために必要な人々の受容性の素地は何という観点から,正に人優先の空間である住宅や店舗といった「沿道空間」と,その地先道路の結びつきによる影響を着想した.沿道空間での居住や買い物,飲食等,様々な活動は,道路上と対応させれば歩行者としての振舞いと同じである.それゆえ,沿道空間と地先道路の一体性,あるいは沿道住民の地先道路への「所有意識」の強さが,歩行者優先道路への受容性や運転時の歩行者優先行動に影響することが想定されたためである.そこで,本研究では特に沿道と地先道路の関係と歩行者優先意識の関連性に着目して調査検討を行うこととしたが,前年度は住宅地に限定した検討を行った.本年度は地域の多様性を考えた検討を行っていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
ドイツの事例調査について,日本語の文献調査を行ったため,道路改造の費用負担制度調査に係る翻訳費用の利用がなかった.ドイツ語文献の調査について次年度実施する.
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