研究課題/領域番号 |
19K04664
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
松本 明人 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (30252068)
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研究分担者 |
上野 豊 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (00542911)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | メタン発酵 / セルロース / 緩速撹拌 / pH / 固形物滞留時間 / Spirochaetes / Firmicutes / 回分式バイアル試験 |
研究実績の概要 |
セルロース系バイオマスを高効率にメタンへ変換するため、反芻動物の反芻胃をヒントに、槽内を緩速撹拌(撹拌子回転速度:10 rpm)することによりセルロース(ろ紙粉末)とセルロース分解菌を反応槽底部に沈降させ、両者を長時間接触させる状態で、pHなどの最適運転条件や担体投入の効果を調べるための実験をおこなう。 令和2年度は令和元年度の実験に引き続き、pH(pH6.0とpH7.0)および固形物滞留時間(以下、SRTと略記)がセルロース分解とメタン生成に及ぼす効果を調べた。さらにセルロースのメタン発酵特性を把握するため、各種炭水化物を用いて回分式バイアル試験を実施した。いずれも発酵温度は35℃である。水質とガス分析、そして回分実験は松本が担当し、菌叢解析は上野が担当した。 実験の結果、pH6.0では反応槽下層でのセルロース除去率が平均5 %と、pH7.1で得られた59 %に較べ、大幅に低下した。一方、メタン生成量は平均250 mL/dとpH7.1で得られた300 mL/dに較べ、やや低下した。つまりpH6.0ではセルロースは下層に蓄積するが、槽全体ではある程度、メタンに変換されていた。 SRTの制御は汚泥を中層・下層から引く抜くことで実施したが制御は困難であり、目標であるSRT10日から14日ではなく、8日になった(槽内pHは約7)。SRT8.0日では、反応槽下層でのセルロース除去率が平均66 %であり、メタン生成量は平均190 mL/dであった。 回分式バイアル試験より、セルロースのメタン発酵では反応の進行の遅れを示す遅滞時間は3日と大きいが、一次反応速度定数やメタン生成ポテンシャルは可溶性炭水化物との差が小さいことがわかった。 菌叢解析では、繊維分解菌としてpH7.1ではSpirochaetesが多かったが、pH6.0やSRT8日の系ではFirmicutesが多いことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度の実験ではこれまで未検討であったpH6.0でのセルロース分解およびメタン発酵特性を明らかにすることが出来、pH6よりpH7のほうがセルロース除去そしてメタン生成で優位であることが判明した。一方、令和元年度に実施したpH6.5(pH 6.4~pH 6.6 )での運転では反応槽下層でのセルロース除去率が平均84 %(80 %~93 %)と高かったが、メタン生成量は平均210 mL/d(100 mL/d~300 mL/d)とばらつきが大きいうえ、低かったため、最適pHを確定するため、再度pH6.5でのセルロース除去率とメタン生成量の確認が必要である。 一方、SRTの影響に関しては汚泥の反応槽中層・下層からの引き抜きでは目標であるSRT10日から14日での制御は困難であったが、令和元年度の実験で見られたSRTが14日以上になるよりは8日や10日程度の短いSRTでメタン生成速度や反応槽下層でのセルロース除去率が良好である傾向を再確認できた。 セルロースのメタン発酵特性を他の炭水化物と比較するため実施した回分式バイアル試験の結果より、セルロースのメタン発酵は処理時間を要するものの、メタン回収量の面では他の可溶性炭水化物と同等であることがわかった。 このほか、菌叢解析の結果、繊維分解菌の菌叢がpHやSRTの影響で変化することが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度はpH6.0と7.0で実験をおこない、pH7.0のほうがセルロース除去率、そしてメタン生成速度の両面から優位であることがわかった。一方、令和元年度に実験をおこなったpH6.5ではセルロース除去率は高かったもののメタン生成速度が令和2年度に得られたpH6.0での値より低く、再度確認のため、pH6.5でのセルロース除去率とメタン生成速度を調べる。その結果を踏まえ、セルロースのメタン発酵に関する最適pH(7.0あるいは6.5)で、セルロース容積負荷を現行の1.25 kg/(m3・d)から2.0 kg/(m3・d)、そして処理能力に余裕があれば3.0 kg/(m3・d)まで増大させ、セルロース分解およびメタン生成能を評価する。なお合わせて菌叢解析も実施する。 回分式バイアル試験では、多糖類であるセルロースとおなじβ1-4 グリコシド結合を介したグルコースからなる二糖類のセロビオースのメタン発酵特性、そしてセルロースと他の可溶性炭水化物を混合した場合のメタン発酵特性を調べ、セルロースのメタン発酵効率化や運転方法のヒントを探る。 なお令和2年度の実験でも低pH域でのセルロース分解能の向上とメタン生成の阻害は起きなかったため、担体投入ならびに担体表面に形成された生物膜内でのpH勾配による低pH下での良好なメタン生成の検証は引き続き、実施しない。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症対策のため、参加を予定していた学会が急遽、オンライン開催になり、出張費の一部が残った。令和3年度予算と合わせ、学会参加費として使用する予定である。
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