様々な動物の成長、繁殖、生残に不可欠とされる高度不飽和脂肪酸の1つであるエイコサペンタエン酸(EPA)は主に珪藻によって、ドコサヘキサエン酸(DHA)は渦鞭毛藻類などの藻類によって合成され、食物連鎖によって水圏生態系に組み込まれ、様々な動物に利用されている。EPAやDHA不足による成長率、繁殖率、生残率の低下が多くの水生動物で報告されている。近年では繊毛虫などの原生動物もEPAやDHAを合成していることが明らかになりつつあり、原生動物がEPAやDHA供給者としての役割を担っている可能性がある。しかし、原生動物によるEPAの生産量については検討が不十分であり、高度不飽和脂肪酸供給者としての寄与は分かっていない。 他方、湖沼では世界的に富栄養化によるアオコの異常増殖が問題となって久しい。アオコは利水上の障害を引き起こすのみならず、アオコを引き起こす藍藻類はEPAやDHAを含まないため、生態系に供給されるEPAやDHAが減少し、水生動物の健全な生息が阻害される恐れがある。すなわち、もし、原生動物がアオコを餌として利用し、EPAやDHAを合成していれば、摂食によるアオコの抑制とEPAやDHAの供給という二つの役割を果たしていると捉えることが可能である。そこで、本研究では、繊毛虫のUronema sp.に藍藻のMicrocystis aeruginosaを餌として与え、摂食可否ならびに高度不飽和脂肪酸の生産量を評価した。その結果、Uronema sp.は1個体あたり11.5 cells day-1の速度で藍藻を摂食した。また、1個体あたりのEPA含有量が0.68 pgと見積もられた。珪藻が生産するEPAの範囲内の値であった。今回の実験からはDHAの合成は確認されなかったものの、アオコが発生している富栄養湖において、繊毛虫がアオコの抑制とEPA供給の役割を担っている可能性が示された。
|