研究課題/領域番号 |
19K04672
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
中野 和典 日本大学, 工学部, 教授 (30292519)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 堆積物燃料電池 / 防虫 / 金属 |
研究実績の概要 |
本研究では下水汚泥の脱水と発電を同時に行う堆積物燃料電池(SMFC)において観察されるチョウバエの発生抑制現象と下水汚泥からの金属溶離現象の解明と応用に挑む。これらの現象はミリボルトの微弱な発電に伴って同時に起きており、チョウバエの発生抑制が電気ショックによるものでなく、汚泥から溶離した金属により引き起こされていることが考えられる。この仮説を検証するために行った令和元年度の実験では、閉回路では鉄の価数に関わらずチョウバエの発生は抑制されたが、開回路では抑制されず、鉄が存在しても発電が伴っていなければチョウバエ発生抑制効果は発揮されないことが示された。そのような効果はCu、Zn、Ni、Cr添加系でも確認され、金属毒性の直接的な影響がチョウバエ抑制作用として反映された可能性が示唆された。さらにチョウバエの発生抑制はライフサイクルの中で卵から幼虫にかけての段階に対して起きていることが明らかとなった。これらの結果を踏まえ、令和2年度においてはまず汚泥に依存しないチョウバエ完全培養系を確立し、SMFCの発電と鉄の影響を区別可能な実験系によりチョウバエ抑制作用を検証した。その結果、金属を含まないSMFCでは、発電条件下でもチョウバエ抑制作用が働かないことが明らかとなった。この結果により、発電がチョウバエ抑制作用に直接的な影響を与えていない可能性が示されたことから、改めて鉄の濃度とチョウバエ抑制作用の関係を検証したところ、発電がなくても0.5mmol/L以上の鉄が存在するとチョウバエの抑制作用が働くことが明らかとなった。さらに、鉄はチョウバエのライフサイクルの中で卵と幼虫に影響を与えることが明らかとなった。令和元年度の実験ではチョウバエの産卵が汚泥中であったのに対し、次年度ではろ紙上であった。導電性の低いろ紙上ではチョウバエの卵が発電の影響を受けず抑制作用が働かなかったことが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究課題(1)金属非存在条件におけるチョウバエの発生抑制効果の検証については、令和2年度に汚泥に依存しないチョウバエ完全培養系を確立し、SMFCの発電と鉄の影響を区別可能な実験系で発電条件下でもチョウバエ抑制作用が働かないという結果を得たことで、発電単独ではチョウバエの発生抑制効果が発揮されないことを確定することができた。研究課題(2)チョウバエの発生抑制に必要な金属条件の解明については、令和元年度のCu、Zn、Ni、Crの各金属種の持つ生物毒性がチョウバエ抑制作用を与えていることを示唆する結果に続き、令和2年度に発電がなくても0.5mmol/L以上の鉄が存在するとチョウバエの抑制作用が働くことを明らかとなり、濃度条件についての知見を蓄積することができた。研究課題(4)チョウバエのライフサイクルと発生抑制効果の関係の解明については、令和2年度の成果により、鉄がチョウバエのライフサイクルの中で卵と幼虫に影響を与えることを確認することができた。一方、研究課題(3)pH条件がチョウバエの発生抑制に及ぼす影響の解明については、令和2年度中に結論を出すには至らなかった。また、研究課題(5)脱水を同時に行う堆積物微生物燃料電池の金属溶離特性の解明、研究課題(6)pH条件が金属溶離特性に及ぼす影響の解明については、ろ過濃縮型SMFCの発電持続性に問題があり、計画通りの検証を行うことができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
研究課題(3)pH条件がチョウバエの発生抑制に及ぼす影響の解明については持ち越しとなっており、令和3年度に実施する。研究課題(1)金属非存在条件におけるチョウバエの発生抑制効果の検証、研究課題(2)チョウバエの発生抑制に必要な金属条件の解明、研究課題(4)チョウバエのライフサイクルと発生抑制効果の関係の解明が予定通りに完了できたことから、それらの成果をもとに研究課題(7)チョウバエ発生抑制現象の応用性の検討および研究課題(9)チョウバエ発生抑制現象及び金属溶離現象の強制荷電による再現については、予定どおり令和3年度に実施する。一方、研究課題(5)脱水を同時に行う堆積物微生物燃料電池の金属溶離特性の解明、研究課題(6)pH条件が金属溶離特性に及ぼす影響の解明、研究課題(8)金属溶離現象の応用性の検討については、ろ過濃縮型SMFCの発電持続性の問題が解決できていないことから計画を変更し、外部電源を用いた荷電により金属溶離現象を再現することで間接的に各項目の検討課題を検証することを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
ろ過濃縮型SMFCの発電持続性に問題があり、研究課題(5)脱水を同時に行う堆積物微生物燃料電池の金属溶離特性の解明、研究課題(6)pH条件が金属溶離特性に及ぼす影響の解明について計画通りの検証を行うことができなかったことが差額が生じた要因である。研究課題(5)、研究課題(6)および研究課題(8)金属溶離現象の応用性の検討については、ろ過濃縮型SMFCの発電持続性の問題が解決できていないことから計画を変更し、外部電源を用いた荷電により金属溶離現象を再現することで間接的に各項目の検討課題を検証することを試みることとし、差額予算を充てて実施する。
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