本研究では下水汚泥の脱水と発電を同時に行う堆積物燃料電池(SMFC)において観察されるチョウバエの発生抑制現象の解明を試みた。この現象はミリボルトレベルの微弱な発電に伴って起きており、チョウバエの発生抑制が電気によるものでなく、汚泥から溶離した金属により引き起こされていると考えられた。この仮説を検証するために行った下水汚泥に金属を添加した実験により、発電が伴なわなければSMFCのチョウバエ発生抑制効果は発揮されないことが示され、そのような効果はFe、Cu、Zn、Ni、Cr添加系で確認できた。また、チョウバエの発生抑制はライフサイクルの中で孵化の段階に対して起きていることが明らかとなった。汚泥に依存しないチョウバエ完全培養系を確立し、SMFCの発電の影響と金属の影響を区別可能なSMFC実験系でチョウバエ抑制作用を検証したところ、金属を全く含まないSMFCでは発電条件下でもチョウバエ抑制作用が働かないことが明らかとなり、仮設のとおりチョウバエの発生抑制が電気によるものでなく金属により引き起こされていることを示す結果を得ることができた。さらに、脱水濃縮汚泥のように固形化したMFCでも金属がない条件ではチョウバエ抑制作用は発揮されないこと、金属の形態が塩化物や硫化物、凝集剤での形態である高分子であってもチョウバエ抑制作用に差異はないことが明らかとなった。一方、MFCによるチョウバエ抑制作用は下水汚泥を使用した系では容易に発揮されるが、鉄を単独で使用した単純な系では発揮され難いことが明らかとなった。これらの結果を総括すると、SMFCにおいて観察されるチョウバエの発生抑制現象は下水汚泥に含まれる複数の金属が発電条件下で遊離してチョウバエの孵化段階を抑制することにより起きていることになり、仮設を確認することができたが、カギになる金属種の特定には至らなかった。
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