研究課題/領域番号 |
19K04676
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
樋口 能士 立命館大学, 理工学部, 教授 (60288628)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 生物脱臭装置 / トルエンガス / 体外分泌物 / 糖 / タンパク質 / 従属栄養培養 |
研究実績の概要 |
生物脱臭法は、大気汚染物質の1つである揮発性有機化合物(VOCs)を低環境負荷で効率的に処理可能な方法の1つとされている。本研究では、充填塔型生物脱臭装置内に生息する微生物の体外分泌物がVOCガス除去能力に与える影響を考察することで装置の効率化を図ることを目的に、基礎実験を実施した。昨年度の研究では、主にトルエン分解菌であるPseudomonas putidaの単離株を用いて、培養時に微生物から分泌されるタンパク質成分の分子量分画を行い、各分画が微生物表面液膜に存在することによるトルエンガス除去速度を比較した。当該年度の研究では、生物脱臭装置から採取したトルエン分解混合菌を用いた。トルエンガス以外の有機基質を与えた諸条件で培養(従属栄養培養)を行い、培養菌の体外分泌物の分泌特性とトルエンガス除去特性を比較した。 今回用いた混合菌は、無機塩培地条件では、トルエンガス暴露条件であっても極めて増殖速度が遅かった。この混合菌を用いて、異なる有機基質濃度を設定したトルエンガス暴露条件下での培養を行なったところ、有機基質濃度の増加に応じて、培養液中に分泌された糖濃度、タンパク質濃度の増加が見られたが、増加の程度はタンパク質の方で顕著であった。また、これら複数の糖/タンパク質組成の液膜表面を有する生物膜でトルエンガス除去速度を比較した結果、糖濃度が高い条件で速度が低い傾向が見られた点では既往の結果と整合したが、糖、タンパク質濃度が全体的に高い場合も低い場合も、トルエンガス吸収速度は低減する傾向が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、これまで使用していた単離株(Peudomonas putida)が無機栄養塩溶液下で培養できず、その原因も解明できなかった。そこで急遽、実際にトルエンガスを処理している生物脱臭装置から混合菌を採取し、特定の菌の単離を試みたが、得られた単離菌はいずれも、トルエンガス以外の有機基質を与えない無機栄養塩培地内では十分な増殖速度が得られず、従来P.putida単離株で実施していた実験の再現が不可能であった。 こうした作業と並行して、混合菌を単離株の代わりに使用した培養試験とトルエンガス除去試験を実施したが、無機塩培地では十分な生育が得られず、結果としてトルエンガスに有機基質を与える培養条件で混合菌を培養し、得られた菌で生物膜を作成し、糖、タンパク質濃度を分析した上澄み液を生物膜表面の液膜としてトルエンガス除去試験を実施した。結果としては、概ね従来単離株で実施した結果を踏襲したものとなったが、従属栄養培養下での増殖特性や糖、タンパク質の分泌特性などが観察された。 今回得られたこれらの結果は、研究計画で想定していたものとは全く異なる条件下での実験結果であった。ただし、今回の実験条件は、既往の研究よりもより実際の装置で繁殖している菌叢に近い条件であり、その結果が概ね単離株で得られた結果を踏襲する形となった点は、有用な知見であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、できるだけ早い段階で、無機塩培地で培養可能なトルエン分解菌の単離株を取得し、本来予定していた分泌物の詳細な分類と、トルエンガス除去に有効な分泌成分の絞り込みを行う。特に、本来実施を予定していた、糖成分の分画と各分画存在下でのトルエンガス除去特性の観察を行い、特に、トルエンガス除去を大きく阻害する成分の特定を試みる。 また、新たに三次元蛍光分析を用いた分泌物成分の分析を行い、糖とタンパク質の他に存在する有機成分の特性をいくらか詳細に把握し、それら成分の増減とトルエンガス除去特性を比較する。 本年度の結果より、従属栄養条件下では、トルエンガス除去に対する至適有機物濃度が存在していたことから、これらの至適条件を得るために投与する従前とは異なる有機成分、特に有機溶媒成分を検索する。特に、生物脱臭装置に対して有効な微生物は、菌体収率が低くガスの比除去速度が高い菌株あるいは菌叢であることから、一定のトルエンガス除去特性が認められる菌株が得られたら、それらの培養時の増殖特性とともに炭素収支についても観察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、コロナ禍の影響などの諸事情で、当該研究に係る学会発表等を行わなかった。これらの成果は次年度以降に発表する予定で、次年度使用額の一部は、繰り越した学会発表や論文作成等に使用する予定である。また、想定外の微生物の単離作業を実施しているため、次年度以降、単離株の同定等に予算を使用する予定である。
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