本研究では、微生物反応を利用してガス状の揮発性有機化合物(VOCs)を効率的に処理する生物脱臭法の要素技術として、ガス吸収効率を高めるため、微生物の体外分泌物により構築されるガス-液間界面性状を最適化することを目的に、基礎的な実験を実施して来た。ガス状VOCとしてトルエンを、トルエンガスを除去する微生物にはトルエン分解菌の単離株と生物脱臭装置から採取した混合菌を用いて来た。2021年度には、トルエン分解菌とは無関係な市販の生物由来界面活性物質を用い、この溶液を液膜に溶解させてトルエンガス除去実験を行ったが、設定濃度が高かったことと、十分なデータが取得できなかったことより、2022年度は同様の実験を継続した。実験では、市販の生物由来界面活性物質とトルエン分解菌由来体外分泌物の双方を、液膜に存在する溶解濃度を広範囲に設定し、トルエンガス除去試験を行った。その結果、市販の界面活性物質については液膜中濃度の上昇とともにトルエンガス除去速度が向上する傾向であった反面、トルエン分解菌由来体外分泌物では既往の成果と同様、トルエンガス除去速度に対する液膜中の至適濃度が存在した。 過年度の本研究では、体外分泌物の特定の分子量分画が液膜に存在することで、糖濃度によらず高いトルエンガス除去能力を示すこと、トルエン以外の有機基質濃度を増加させてトルエン分解菌を培養することによりタンパク質の分泌が増加するが、トルエンガス除去に対するタンパク質の液膜中濃度には至適条件が存在すること、などが観察され、本研究では一貫して、トルエン分解菌の体外分泌物はトルエンガス除去に正負両方の影響を及ぼし、液膜中における至適濃度が存在することが示唆された。
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