近年、環境中に放出された生物由来のDNA(環境DNA)を解析する技術が急速に発展し、河川水等の環境DNAの解析により生息魚類を検出できるようになってきた。しかし、魚種によってはDNA配列が不明なため種が同定できない、同じ種でも地域個体群によって配列が異なる可能性がある、調査対象に適した環境DNA調査方法の検討を要するといった課題がある。本研究では、九州地方の純淡水魚及び外来魚を対象とする環境DNAを用いた調査手法を確立し、高解像度・時系列データの獲得による短期的な魚類多様性の変化を調査した。研究項目と概要は下記のとおり。 ①DNAデータベースの構築:九州内で採捕した全42種(亜種)の純淡水魚及び九州地方で確認された外来魚20種について、12S rRNA領域とチトクロームb領域を解読した。なお、個体は一部を遺伝子解析用の標本とした後に本体をホルマリン固定標本とし、両標本を紐づけて一連の番号を付与したトレーサブルな形で整理した。 ②環境DNA調査手法の検討:河川における環境DNA試料として瀬又は淵のみで採水した場合、検出される魚種が異なっていた。また、別途実施した瀬と淵の混合試料では、同一地点で過去7回の採捕及び目視調査で確認された全ての魚種を一度の環境DNA調査で検出することができた。河川における採水では、瀬と淵を考慮して調査地点あたりの採水箇所を増やして混合するなどにより検出魚種の取りこぼしの低減できると考えられた。 ③高解像度・時系列調査:福岡県内の那珂川(5地点:筑前地域)及び二ッ川(3地点:筑後地域)において令和3年11月、令和4年2月、5月、8月に環境DNA調査を実施した。検出された魚類の種数は全ての調査地点において令和4年5月が最も多かった。また、時系列調査による魚種の検出傾向から、環境DNA調査を用いて魚類の生活史を反映したデータを取得できる可能性が示唆された。
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