研究課題/領域番号 |
19K04695
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
佐藤 幸恵 東京都市大学, 建築都市デザイン学部, 准教授 (70408714)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高温履歴 / 強度発現 / 水和生成物 / セメント硬化体 / 履歴温度 |
研究実績の概要 |
高温履歴を受けるセメント硬化体および季節温度変化をうけるコンクリートについて,履歴温度が水和生成物や強度発現に及ぼす影響を検討した. セメント硬化体においては加熱期間の異なる場合の圧縮強度,水和生成物の生成状態,ビッカース硬さによる水和物強度を検討した.その結果,高温履歴を受けると20℃養生と比較してカルシウムシリケート水和物が増大することがX線回折による定量結果より明らかとなった.しかし,電子顕微鏡観察における反射電子像では生成したカルシウムシリケート水和物が水酸化カルシウムとの識別が困難な非常に近い輝度の状態で観察されるため,X線回折における水和生成物の定量結果と乖離が生じることがわかった.これは,生成した水酸化カルシウムのC/S比が異なるためと考えられ,平均原子番号の大きいカルシウムシリケート水和物(C-S-H(II))の増加分と考えられる.また,ビッカース硬さ試験による水和生成物の硬さを調べた結果,水和物強度は水和物の過半を占めるカルシウムシリケート水和物の強度が低く,特に高温履歴によって生成するカルシウムシリケート水和物のビッカース硬さが小さいことが高温履歴を受けるセメント硬化体の強度増進の停滞に大きな影響を及ぼしていると考えられる.また,このとき,高温で養生した水和物の空隙は,粗大化することが観察され,低い強度の水和生成物が増大したこと,および空隙の粗大化により強度発現が停滞すると考えられる.温度履歴の継続時間については,高温履歴時間が長くなるほどこの傾向が強まることが明らかとなった. また,コンクリートを用いて実際の建築現場環境を想定した屋外実験を行い履歴温度の異なる場合の強度発現性状を供試体および部材から採取したコア供試体で検討した.高温履歴以外には冬期などの低温環境も想定されるため,冬期実験および凍結融解試験も実施し適用する履歴温度範囲を拡大して検討を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍の影響を受け,実験参加関係者が実験直前に参加出来ない状態になる等,日程変更を余儀なくされた.この研究は特に供試体作製から一定の養生期間を確保する必要があるために全体的に実験が遅延した.しかし,概ね良好な結果が得られており,いくつかの要因で確認実験を行うことで当初の目的を達成できるものと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
高温履歴時の水和生成物の力学特性をビッカース硬度以外にインデンテーションなどを活用してさらに詳細なデータを取得する.SEMではEDSマッピングを行い,生成した水和物の識別分析を追加する. また,各種温度条件におけるコンクリートの特性の実験は継続して行っており,これらのデータを取得する. 実験データの汎用性,再現性を評価するために,過去に実施された高強度コンクリートの構造体実験の結果を収集してデータベース化し,強度発現傾向と実験結果を総括し,履歴温度による構造体コンクリートの性能評価を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
実験計画がコロナ禍で遅延したため,実験実施費用として計画していた予算を使用できなかった.そのため,次年度に継続して測定している実験の費用として使用予定である.また次年度使用額には論文投稿費用として予定していた額も含まれており,実験予定が遅延した影響でデータのとりまとめが遅れたため次年度に論文投稿費用として使用する予定である.
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