本研究では,コンクリートが構造物として共用される期間,長期的に発揮する性能に及ぼす影響を履歴温度に着目して各種検討を行った. まず,履歴温度の異なる条件における水和反応の変化と強度発現への影響を実験的に検討した.作製したセメントペースト硬化体に対して圧縮強度やビッカース硬さ試験による水和生成物の硬さを検討した.その結果,高温履歴を受けるとカルシウムシリケート水和物が増加することがX線回折による定量結果より明らかになった.しかし,電子顕微鏡観察における反射電子像では,生成したカルシウムシリケート水和物の明度が変化し,水酸化カルシウムとの識別が明確でなくなることを明らかにした.これは平均原子番号がより大きいカルシウムシリケート水和物が生成するためと考えられ,このような場合のビッカース硬さは低下することを確認した. また,コンクリート部材を想定するため,模擬部材を作製して温度履歴やコア強度の比較を行った.さらに,過去に実施された7000件以上の構造体実験結果を収集・整理し,コア強度に対する調合や養生温度の影響度を機械学習によって分析した.その結果,履歴温度に関わる要因として,部材内部の最高温度と打込み時の平均気温については打込み時の平均気温のほうが影響は大きいことを明らかにした.また,平均気温の影響は材齢28日のほうが材齢91日のコア強度よりも大きく影響することを確認した.長期的な強度発現にはセメントの鉱物組成比率が大きく影響していることが要因と考えられ,実験的に求めた水和生成物の養生温度影響との関係が推察された.
|