研究課題/領域番号 |
19K04717
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
衣笠 秀行 東京理科大学, 理工学部建築学科, 教授 (00224999)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 地震時機能継続性 / 修復時間 / 対機能保全耐震性 |
研究実績の概要 |
本年度(令和元年度)の研究目的は、「①部材損傷度評価モデルの構築」と「②建物の修復時間評価法の確立」である。この目的のため次のような研究活動を行った。 「①部材損傷度評価モデルの構築」では、柱・梁部材の時間損傷度(修復時間の観点から損傷を評価する指標)を理論的アプローチから推定する手法を提案し、妥当性を実験結果との比較を通して確認した。また、柱と比べて剛性や耐力は大きく、優れた耐震要素であるが、一方で、損傷が発生しやすく、建物の機能継続性の阻害要因となることが考えられる、袖壁付き柱を対象に、時間損傷度を用いた耐損傷性能評価を行い、袖壁付き柱が建物の機能回復に及ぼす影響の大きさを、柱部材との比較、並びに、力学特性(両側袖壁か片側袖壁か、袖壁の壁厚と配筋量の違い、腰壁や垂れ壁の有無)の異なる袖壁付き柱間での比較を通して明らかにした。 「②建物の修復時間評価法の確立」では、建物規模の異なる4ケースおよび非構造部材(非構造RC外壁・外壁ドア・外壁窓・間仕切り壁・室内ドア)の量の異なる3ケースを設定し、これらを組み合わせた合計12ケースについて地震応答解析を行い、建物に発生した変形をもとに修復に必要な時間(IRT)の評価を行った。この結果、既往の研究で示されている、建物建設における工事の量と広がりがもたらす工期の増加傾向および、兵庫県南部地震における実修復時間の増加傾向をもとに、損傷の量と広がりが引き起こす修復時間の相対的増加に対して妥当な評価を与えることを示した。また、損傷の量・広がりの増加に伴う実修復時間(実際の地震被害における修復時間)の量的な増加傾向をおおよそ表現できることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の遂行において、申請書に挙げた次の2つの研究項目、「①部材損傷度評価モデルの構築」と、「②建物の修復時間評価方法の確立」が重要となる。初年度の令和元年は、これらの研究に取り組んだが、順調に研究が進み、満足のいく成果を上げることができている。 具体的な研究進捗状況として、 1.地震時の「建物」の損傷評価を修復時間の観点から行うためには、損傷を受けた「部材」の修復時間と部材角の関係を合理的にモデル化する必要がある。このモデル化により、部材の変形(部材角)から、建物の修復時間評価のための基本情報を得ることができる。しかしながらこの関係を、部材実験からいちいち求めるのには限界があり,種々の部材の時間損傷度を算出する理論的なアプローチが求められる。本年度、既往の研究で示されているRC 柱部材と梁部材を対象とした「ひび割れ長さ推定モデル」と著者らが提案する「ひび割れ長さ比」を用いた時間損傷度の理論的算出を試み、これの妥当性を実験結果との比較を通して示した。これにより、部材の長さ・断面寸法を変化させた場合の修復時間と部材角の関係を得ることが可能になった。 2.著者らは地震後機能回復性の観点から「建物」損傷の深刻度を相対的に評価する指標(理想修復時間IRT)の提案を行っている。この指標において、損傷の深刻度とは、修復時間が相対的に大きくなることと定義した。IRTは、耐損傷性能の確保を目標とした耐震設計法における目標性能レベルの設定や耐震性能レベルの評価に用いられることを想定している。本年度の研究において、工事の量と広がりがもたらす工期の増加傾向および、兵庫県南部地震における実修復時間の増加傾向をもとに、IRTが損傷指標として妥当な結果を与えるものであることを示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究(令和元年度の研究)で、申請書の「研究期間内に明らかにすること」で述べた研究成果が得られる目処がついたと考えている。令和二年度は初年度の研究成果を踏まえて、次の2項目、「③建物の対機能保全耐震性能評価」および、「④対人命保全耐震性との比較」に取り組みたいと考えている。 1.「③建物の対機能保全耐震性能評価」では、初年度の①②の成果を用いて、現行耐震基準で設計された建物を対象とした対機能保全耐震性能評価を行う。地震時の損傷が問題になりやすいフレーム構造を中心に具体的には、崩壊モード・階高・階数・スパン長さ・用途の異なる建物の応答解析を行い、対機能保全耐震性能を評価する。また、最近の地震被害で居住用建物の非構造部材の損傷が機能継続性の観点から問題になっていることから、事務所や住宅など用途の違いなどによる非構造部材(方立て壁・袖壁等、間仕切り壁、ドア、など)量の違いが及ぼす影響についても分析対象とする。 2.「④対人命保全耐震性との比較」では、上で得られた成果を基に、対機能保全耐震性能が対人命保全耐震性と比べ小さくなる、あるいは、大きく乖離する条件を探るなど、現行耐震基準建物の対機能保全耐震性能と対人命保全耐震性の関係性分析を行うとともに、対機能保全耐震性が対人命保全耐震性と同じとなるために必要となる耐震性(付加すべき、強度・剛性・靭性)レベルを明らかにする。
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