本研究の目的は、地震後機能継続性の観点から対機能保全耐震性を分析する手法の開発と、それを用いて、現行耐震基準で設計される建物の機能停止に対する耐性(対機能保全耐震性)の現状を明らかにすることである。この目的のため研究期間全体において具体的に次の4つの研究項目、①部材損傷度評価モデルの構築、②建物の修復時間評価法の確立、③対機能保全耐震性能評価、④対人命保全耐震性との比較、に取り組んだ。これら研究項目における成果を以下にまとめる。なお、最終年度はこれら研究項目の内の③と④について実施しており、以下に述べる③と④が最終年度の成果である。 研究項目①:部材の損傷度を評価する指標である「時間剛性」の提案を行い、これを用いた、RC袖壁付き柱とRC柱の損傷性状の比較を行った。また、実験データから時間損傷度を得ることには限界があることから、理論的時間損傷度算出方法を提案した。研究項目②:修復時間等を,1質点系および多質点系モデルの動的解析から算出する方法を示した。また、地震時の層間変形角の増加に伴う建物の層に発生する労務量を推定するモデルを構築した。研究項目③:高層建物の機能回復性に注目して、規模および構造形式の異なる建物での地震応答解析を行い、建物の「損傷量」と「損傷の広がり」がどのように増加し、また機能回復性にどのように影響を与えるのかについて分析を行った。また最近、建物のレジリエンス性能の評価の重要性が指摘されているが具体的な評価方法は確立されていない。そこで、理想修復時間IRTの概念を使い、継続使用性への影響が懸念されている崩壊形の違いが,建物のレジリエンス性能に及ぼす影響について検討を行った。研究項目④:建築基準法が要求する対人命保全耐震性を満足する建物の修復時間や機能停止面積を上で得られた成果を基に算出し、対機能保全耐震性能と対人命保全耐震性との関係性について検討を行った。
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