本研究では,複数の材料靱性において切欠き付鋼試験片の繰返し載荷による破壊実験および有限要素解析によって得られるワイブル応力等の脆性破壊評価のクライテリアと破断サイクル数の関係を定量化することを目的としている.さらにその結果を利用して,溶接接合部の脆性破壊評価の有効性を明らかにする. そのため,3種類の材料(低靱性,中靱性,高靱性)について,シャルピー衝撃試験および破壊靱性試験を行い,材料の破壊靱性(脆性破壊予測指標の1つであるワイブル応力等)を把握し,その上で,切欠きを有する鋼試験片の繰返し載荷破壊実験を実施した.これは,低・中・高靱性の3種類の材料それぞれにおいて異なる温度であり,すなわち,「包括的靱性レベル」での繰返し実験を行った.これにより,シャルピー衝撃値と累積塑性変形能力の関係を定性的に評価することができた.加えて,材料靱性の指標にもなる脆性破面率により延性破壊と脆性破壊の境界(脆性破面率 = 約20 %)を把握することができた.また,限界ワイブル応力を用いて,異なる温度(破壊靱性)で実験した試験体の変形能力を推定した結果,大半の試験片において20%の誤差範囲で脆性破壊時の累積塑性変形能力を推定することができた. 以上の得られた結果を踏まえて,溶接接合部から発生する脆性破壊予測手法の有効性を明らかにすることを目的に,過去の実大溶接継手モデル試験体の一部に対して,有限要素解析により実験を再現するとともに,欠陥先端の応力状態を確認した.その上で,本研究で提案する累積塑性変形能力推定手法を,これら欠陥を有する試験体に適用した.その結果,一部で予測結果と実験結果にばらつきがみられたものの,本手法が有効である可能性を示した.
|