本研究課題は二つの目的を有する。一つは、東日本大震災に伴う津波により失われた、都市の影響を受ける前の海風の特性を把握するための沿岸部測定点の復活、そして都市暑熱化を念頭にした中心市街地付近の測定点の増設、すなわち都市気候観測網の再整備である。もう一つは、当研究室が蓄積する都市気候観測データと既存の将来気候の予測資料を連結させ、空間解像度を向上させる将来都市気候の統計的ダウンスケーリング手法を確立するとともに、その推定結果について分析を施すことである。 当研究室で再整備した都市気候観測網から得られた測定データに基づく、統計的ダウンスケーリングのための基礎的な精査検討、すなわち観測日によって絶対値の異なる気温観測結果を同時刻の仙台管区気象台観測結果との差値(気温差)に着目することで、日々の気候差異に関わらず比較的精度よく各所の気温を推定することの検討を、研究計画通り実施した。関連する研究成果を国際学術誌に当研究室大学院生と連名にて投稿し、査読付き論文として採択される等、一定の成果を挙げることができたと考えている。 コロナ禍にあって、当初計画していた国際研究集会への参加、研究成果発表は、必ずしも十分に果たせなかったが、補助事業期間を延長することである程度対応できたと考えている。 本研究課題にて都市気候観測網の再整備は概ね完了した。統計的ダウンスケーリングについても概ね完遂したと考えている。今後もこの都市気候観測網を活用した測定を継続し、海風影響の強い沿岸都市・仙台における気候配慮の都市計画に資する学術研究を推進する所存である。一方、所属研究機関内で学長就任してしまい、職務を第一義にせざるを得ない状況でもあり、学長業務を優先しつつも研究を継続することとしたい。
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