研究課題/領域番号 |
19K04737
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
吉澤 望 東京理科大学, 理工学部建築学科, 教授 (40349832)
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研究分担者 |
山口 秀樹 国土技術政策総合研究所, 建築研究部, 主任研究官 (60411229)
三木 保弘 国土技術政策総合研究所, 住宅研究部, 室長 (90356014)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 広がり感 / 光環境 / 輝度画像 / 三次元輝度マッピング / VR / シミュレーション / 奥行き把握 |
研究実績の概要 |
2019年度は研究初年として、広がり感の分析のための技術準備、被験者実験、成果の発表を行った。技術開発としては、空間内における光の三次元的な分布情報を取得するため、光環境シミュレーションによって輝度画像を生成する際に、各ピクセルの輝度だけでなくそのピクセルに対応する微小面までの距離と方向を取得する、「3次元輝度マッピング」のスクリプトを開発し、輝度と位置の統合的な情報が広がり感の推定に利用できるようにした。また、VR(バーチャルリアリティ)による空間が広がり感評価の比較基準空間や評価対象空間として利用できるかを検討するため実験対象の空間と光環境をVR内に作成し、さらにVRゴーグル内に表示される実際の輝度を実空間の輝度と同等になるように調整できるようにした。被験者実験としては、建築研究所において空間の大きさ、照明手法、光量、明るさの分布を複合的に変化させた空間の広がり感を比較する実験を行い、空間内の輝度とその三次元的な分布が広がり感に与える影響を推定できる可能性を示した。また、東京理科大学野田キャンパスの講義棟講義室において、大きさの異なる実空間と、それらをそれぞれ再現したVR空間の広がり感を総当たり的に比較評価する実験を行い、VR空間が基準空間や評価対象空間として利用できる可能性を示した。研究成果の発表としては、CIE2019ワシントン大会にてポスター発表、Radiance Workshop2019ニューヨークにて口頭発表、2019年度日本建築学会大会(北陸)にて口頭発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、光環境を空間的にとらえるための3次元輝度マッピングの手法の確立、それを利用しての光環境が広がり感に与える影響を検証するための被験者実験、その結果から広がり感の知覚モデルを構築し、予測式を立てることが目標であった。3次元輝度マッピングについては、Radianceを使用したシミュレーション上における手法は確立できた。しかし、実空間において輝度画像の取得に網羅的な距離測定を統合させる方法については技術的な検討を行い、多数の360°カメラを組み合わせて同時撮影することで距離計測を行うという方針で進めているが、まだ完成には至っていない。被験者実験では、空間の大きさや照明条件がフレキシブルに変えられるよう準備した実験用の空間を使用して様々な組み合わせを行うことで、多数の異なる条件の空間に対する評価を行い、十分な量のデータを得ることができた。この結果を解析することで、被験者から見通すことのできる空間の物理的容積と、輝度に各点の面積的な大きさを加重して平均することで得られる空間内の光量に相当する値、それに比べて相対的に暗い部分を物理的な体積から割り引くことによって、広がり感が説明できるところまで来ている。逆に予定より進んでいる点としては、広がり感評価の実用化にあたって評価プロセスの省力化と、離れた2つの空間を比較評価するために必須となるVRによる広がり感評価の検討まで踏み込むことができた。VR空間を基準として実空間を評価したり、設計中の空間をVRで評価したりという用途において、VRを活用した広がり感評価が有効であることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
まずは2019年度に終わらせることのできなかった、実測での3次元輝度マッピングを完成するため、多数の360°カメラを組み合わせての距離計測・輝度計測が同時に行えるシステムの開発を引き続き行う。2019年度の実験ではそれぞれの実験ごとに基準としていた空間が異なるため、それらを同時に比較して評価することができなかったが、VRでの評価に裏付けができたので、VRによる基準空間を策定し、これまでの実験結果を統合する。加えて、これまでよりも大きな空間、小さな空間をその結果に統合することで、幅広い範囲の物理的大きさの空間で評価した時に広がり感がどのように変化するのかを検証する。また、これまでは住宅のリビング、物のない部屋、大学の講義室と、室の用途が限られていたため実験対象空間の統一とバリエーションの両方が必要であり、多様な用途と大きさ、異なる明るさの空間での実験を行う。窓などの開口部のある空間についても、実験対象に加えていく。 さらには、広がり感を定量化するだけでなく、利用者にとって快適な範囲について検証することが必要である。異なる用途の空間ごとに適した広がり感の範囲を模索することが必要となる。 最終的には、広がり感の評価が空間評価や設計のために有効かつ簡単に使用できるよう、実測ツールが誰もが使えるように提供ができるように整備を行うと同時に、設計データからの広がり感予測ができるようにCADやBIM、3Dモデリングと連動できるような設計ツールにつなげていくと同時に、空間の大きさや明るさ、用途に応じて適した広がり感の情報をまとめて提供できるようにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は広がり感予測式の構築に向けた被験者実験が主たる作業となり、距離計測システムの開発について既存の機器を用いた手法の確認までに留まったため、次年度に機器・ソフトを購入して距離計測システムの購入を進めることとした。
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