研究課題/領域番号 |
19K04739
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
松田 礼 日本大学, 理工学部, 教授 (30469580)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 車両振動 / 振動乗り心地 / 疲労感 / 生理心理反応 |
研究実績の概要 |
本研究は,自動車の運転者と助手席乗員(以下,乗員)の両方を対象として,自動車走行時における振動乗り心地と疲労感を定量的に評価する指標の確立を目的としている。 実験は,所属機関所有の交通総合試験路(幅30m,全長618m,密粒度アスファルトコンクリート舗装の直線路)に設置した,1周約400m(直線区間160m,カーブ半径15m,道幅3m)の周回コースで実施した。1回の実験時間は3時間の連続走行(1時間ごとに停車して心理反応と幾つかの生理反応を測定する)で,運転者は一般道路を想定して運転し,同乗する乗員には着座姿勢を維持させた。実験条件はコースを周回するだけの単調な走行と,コース内の2ヶ所に2個1組の停止指示灯を設置し,点灯時に急制動とならないように目標位置に停車させるタスクを課した走行である。実験中の生理反応は心電図と鼻部の皮膚表面温度のリアルタイム測定と1時間ごとに唾液アミラーゼ濃度と単純反応時間を測定し,心理反応は自覚症しらべによる主観的疲労感とNASA-TLXによる精神的作業負荷を測定した。実験時は生理心理反応と同時に,自動車の速度,加速度をGPSの位置情報を用いて測定し,運転席と助手席の座面振動,床上振動も測定した。 本年度(2019年度)の実験の結果から,(1)心拍数の経時的な変化は運転者と乗員で有意差がみられ,運転者の方が乗員よりも心拍数が高い傾向であること,(2)皮膚表面温度の変化から運転者は運転操作の繰り返しがストレッサーとなり交感神経が優位に働いたと考えられること,(3)自覚症しらべによる主観的な疲労感は,運転者と乗員で有意差がみられ,運転者の方が疲労感を大きく感じる傾向であること等が示唆された。2020年度は実車実験の継続に加えて,得られたデータをさらに精査し,生理反応量と車両振動の物理量,及び生理反応量と振動乗り心地,疲労感との関係を検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度(2019年度)に予定した,前述の2種類の実車実験(交通総合試験路に設置した1周約400mのコースを周回するだけの単調な運転と,周回コース内の2ヶ所に2個1組の停止指示灯を設置し,点灯時に急制動とならないように目標位置に停車させるタスクを課した運転)は,いずれも予定通りの実験条件数を進めることができたため,おおむね順調に進展したといえる。また,本研究の特徴でもある,運転者と乗員の両方に対して複数の生理心理反応を同時に測定する点についても,計画していた測定項目全てにおいて欠損等もほとんどなくデータが得られたことから,実験システムや実験方法についても問題はなかったといえる。 得られたデータを解析した結果から,複数の生理反応量,心理反応量に対して運転者と乗員の間で統計的な有意差がみられたが,生理心理反応量と車両振動に関する物理量との相関関係については解析が不十分であるため,次年度に精査する予定である。また,現在はリアルタイムで測定した全ての生理反応量に対して,車両走行時の経時的変化について詳細な分析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度に続けて2020年度も交通総合試験路に設置した周回コースで実際の車両に運転者と乗員を同時に乗せて走行させ,2名分同時に生理・心理反応と座面振動を測定し,床上振動も測定する実験を継続する。 また,2019年度の結果から,心拍数と疲労感について運転者と乗員の両方で負の相関がみられ,心拍数から疲労感を推定できる可能性が示唆されたこと等を踏まえて,生理心理反応量に対する振動乗り心地と疲労感の関係性を精査し,相関が高い因子を明らかにしていく予定である。さらに,車両走行時の時系列データの解析により,走行中の車両状況(直線走行,カーブ走行など)と心拍数との対応関係が示唆されたことから,時系列データをベースとした振動物理量と生理反応量との関係性についても詳細な分析を進める予定である。 以上の実験予定,データ解析により,最終年度(2021年度)に向けてのステップとして,運転者と乗員,生理心理反応量,車両振動を構成する物理量に対する振動乗り心地と疲労感の関係性について検討していく。さらに,振動乗り心地と疲労感の両方を評価できる共通の指標についても検討を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品購入において一部の物品で予定よりも安価に購入できたため,少額ではあるが次年度使用額が生じた。この金額については次年度の消耗物品の購入に充てる予定である。
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