本研究は,交通総合試験路(幅30m,全長618m,密粒度アスファルトコンクリート舗装の直線路)に設置した1周約400mの周回コースで実施した実車実験である。自動車走行時における運転者と乗員の両方を対象として,振動乗り心地と疲労感を定量的に評価する指標の確立を目的としている。実験方法は前年度までと同様の方法を継続しており,1回の実験時間は1時間ごとに一時停車して心理反応と幾つかの生理反応を測定する計3時間の連続走行である。実験中の生理反応は心電図,鼻部皮膚表面温度,唾液アミラーゼ濃度および単純反応時間を測定し,心理反応は自覚症しらべとNASA-TLXを測定した。 本年度の実験の結果から,次の結論を得た。(1)運転者と乗員の生理心理反応量の経時変化について,走行前の測定値を基準として走行1時間ごとの変化比率を調べた。その結果,LF/HF,皮膚表面温度の生理指標において,運転者は乗員よりも経時的な生理反応量の変化比率が大きい傾向がみられた。また,運転者は前述の生理指標の大部分が変化比率100%を超えており,運転時間が長くなると生理指標の変化比率が増加する傾向がみられることから,運転者は運転操作の繰り返しがストレッサーとなり,交感神経系優位の状態になると考えられる。(2)心拍数と自覚症しらべの複数群または全群平均に対して主観的な疲労感との相関を調べた。その結果,運転者と乗員の心拍数とぼやけ感や不安定感等の多くの群において,ピアソンの積率相関係数が0.3程度の弱い負の相関が認められ,全群平均では中程度の負の相関が認められた。したがって,疲労感が増加すると心拍数が減少する傾向であることから,心拍数を指標とすることで,自動車走行時の運転者と乗員の主観的な疲労感を推定できる可能性が示唆されたといえる。
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