研究課題/領域番号 |
19K04754
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
末廣 香織 九州大学, 人間環境学研究院, 准教授 (80264092)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 熊本地震 / 仮設住宅 / 木造 / 恒久化 / 利活用 / 被災者 / みんなの家 / 持続可能 |
研究実績の概要 |
応急仮設住宅は、災害救助法により2年間で取り壊されることになっているが、2016年熊本地震で整備された木造仮設住宅は、最初から恒久住宅に近いものを建設し、仮設期間終了後も本設として利活用できるよう工夫している。以前は応急仮設住宅として迅速に供給できるのは鉄骨プレハブくらいだったが、現代の木造住宅は、人工乾燥材・集成材の規格化やプレカット技術の発展によって、鉄骨プレハブと大差ない期間で建設できるようになっている。もし最初から地元の施工者が本設住宅をつくることができれば、資源の有効活用と持続可能性、自立再建力のない被災者の負担軽減、そして速やかな地域経済の復興にもつながる。 本研究は「 仮設住宅を一定期間の後に本設として活用するための必要要件と課題」を明らかにすることを目的としている。 2019年度は、木造仮設住宅の建設を進めた行政関係者へのヒアリングを実施し、その供給経緯と今後の本設住宅への転用方法、法規・制度上の問題解決方法、そして市町村内での住宅の位置付けについて確認した。こうした調査の過程で、仮設住宅建設用地の確保に際した土地転用問題、本設住宅に転用しやすい木造仮設住宅の計画技術、仮設から本設まで住み続けている自立再建力のない住民への対応、仮設住宅団地の集会所として建設された「みんなの家」の移設等々の課題が明らかになった。 2020年度、21年度は、コロナ禍のために、現地でのヒアリング調査などがほぼできなかった。一旦それまでの成果をまとめて学会などで発表し、用地確保の留意点や流れなどをフローチャートの形でまとめて行政などに提供した。一方2020年7月には、熊本県南部にて大規模な豪雨災害が発生し、また808戸の仮設住宅が建設された。2021年度はコロナ禍の合間を縫って、様々な形で進んだ木造仮設住宅とみんなの家の利活用の実態を調査し、豪雨災害の仮設住宅についても調査を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度の研究は、概ね当初の計画通りに進んだが、2020年度、2021年度はコロナ禍のために、ほとんど現地に入ることができず、特に住民やコミュニティに対する現地調査が実質的に不可能だった。こうした中でも仮設住宅図面の確認等によって設計上の課題を分析し、転用が難しい敷地における仮設住宅用地転用についての追加調査はある程度実施できたので、一旦こうした成果をまとめて発表した。特に行政担当者にとって有用な成果とするために、被災時に木造仮設住宅建設用地を準備する際に考慮すべきこと、被災後の時間的経過に伴って判断すべきことについて、分かりやすいフローチャートを作成した。 また、21年度末までの間に木造仮設住宅と、仮設住宅の集会場として建設された「みんなの家」の利活用が進み、仮設住宅の7割程度、みんなの家の9割以上が、現地活用、解体移築等によって活用された。設計手法の可能性、発注の工夫といった行政側からの視点については、比較的調査が進んだが、新しいコミュニティへの引き継ぎや利用の実態調査については、ほとんど手が付けられていない。 一方で、2020年7月に熊本県南部で大規模な豪雨災害が発生したために、今回もまた808戸の仮設住宅が建設された。熊本県は熊本地震での経験を踏まえて非常に迅速にこの災害に対応したが、この経緯や現状については、調査を進めた。ここでは新しくムービングハウス形式の仮設住宅も導入されている。まだ熊本地震からの復興が完了したとは言えない状況だが、豪雨災害での仮設住宅団地の状況や対応も研究の課題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度中には、熊本地震の被災者のために建設された仮設住宅団地はほとんどが閉鎖され、木造仮設住宅の多くが現地活用されたり移築されたりした。多くの住民は恒久的な住宅へと移り住み、一部の住民は自立再建できずに仮設住宅が本設に転換されても住み続けている。当初の予定では、こうした住民の方々に対しても追跡ヒアリングを行うことによって、ストレスのかかる仮設での生活やコミュニティ形成問題を調査する予定だったが、コロナ禍のために作業は進まず思わしい成果が望めない。しかし、仮設住宅の移築方法については、一般の解体移築に加えて切断移設という新しい方式も試されたし、2020年7月豪雨被災地に導入されたムービングハウスの事例もある。こうした様々な方式も含めて木造仮設住宅利活用の可能性と課題の比較を行う。 一方この間、当初の予想を超えて、多様な形で「みんなの家」の利活用が進んだ。仮設住宅のみんなの家には、その供給方法の違いによって、規格型、本格型、プッシュ型の3つの形式があり、合計で100棟を超える。最終的には、その9割以上が現地活用、曳き家、解体移築、合築という方法によって利活用されており、残りの事例についても部材活用されたことが分かっている。特に合築の事例については、地域住民と施工者の手によってかなり自由な設計計画が行われており、非常にバラエティに富んだ結果を生んでいる。またコロナ禍で調査が進まなかった、新しいコミュニティへの引き継ぎや利用についても調査を進め、みんなの家の利活用の実態についても比較しながら明らかにする。 最終的には、建設地の選定方法、居住者に対する配慮、将来の利活用までを見込んだ設計計画、多様な利活用の可能性について、これまでの木造仮設住宅研究をまとめる。またその成果が各地の自治体で活用されるように、分かりやすい公表方法についても工夫する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度、2021年度とコロナ禍のために現地に入ることができず、思うように調査が進められなかった。21年度にはこうした状況が見えてきていたので、できるだけ仮設住宅住民へのヒアリングを行わずに得られるデータで研究が進められるように、研究計画の方向性を見直した。しかしそれでも調査の計画をしては延期するという状況が続いたために、どうしてもスケジュールが遅れてしまい、研究を取りまとめるために不足するデータを十分に得ることができなかった。やむを得ず、追加の調査と最後のまとめについては、翌年まで繰り越すことにした。 2022年度は、不足するデータの入手と研究をまとめることに専念する。研究費は、主に交通費、謝金、成果物の印刷費に利用する。
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