研究課題/領域番号 |
19K04758
|
研究機関 | 東北芸術工科大学 |
研究代表者 |
馬場 正尊 東北芸術工科大学, デザイン工学部, 教授 (70515197)
|
研究分担者 |
中江 研 神戸大学, 工学研究科, 教授 (40324933)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | エリア・リノベーション / 公民連携 / テンポラリーアーキテクチャー / 仮設建築と社会実験 / エリアマネジメント / 所有と活用・経営の分離 / 都市経営 / デザインとマネジメントの連結 |
研究実績の概要 |
2021年度は、前年度に当該研究の成果として出版した「テンポラリーアーキテクチャー/仮説建築と社会実験」(学芸出版社)からのフィードバックを各方面から得て、それを実践的研究に反映させるフェーズに移行した。この本で提示したのは、国内外の先進事例を基に、特に制度と組織の観点から分析・考察した結果、公民連携を合目的的に進めようとすると、手法論や事業の形態決定が先行してしまい、公民の間で相互信用が確立するマネジメント主体が生まれにくいこと、それを避けるために、段階的に整備していく手法として、仮設建築や社会実験のようにプロセスを共有するタームを設けることの重要性についてなとであった。 現在進めている実践的研究は、佐賀県城内公園のエリア・リノベーションや、山形市クリエイティブシティセンターの計画・設計・運営などにおいて、 従来のデザインとマネジメントが分離して進められる日本の行政プロセスを改善するために、それらを統合して遂行する方法論の仮説を構築している。それをさらに、仙台市役所整備など他のケースにおいても展開可能かなどの検証を始めている。 また、上記のような公民連携による拠点整備プロジェクトとエリアリノベーションを組み合わせることにより、よりダイナミックで継続性が担保された都市政策に展開する可能性が高いことも把握された。そのメカニズムをより精緻に分析し、方法論に展開していく試行錯誤を行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
継続している新型コロナウィルスの影響により、予定していた調査の一部が実施できなかったため、やや遅れているものと評価した。ただし、刊行した書籍の反響やフィードバックにより、新たな情報や資料が集まり、より深い知見を得ることができている。 今後も、海外への調査研究に関しては障害が予想されるが、現地とのオンライン等のやりとりにより補完していくものとする。 新型コロナウィルスの感染拡大よりも前に調査を行なっていたものは、成果を取りまとめ、学会発表を行った。また、現地調査が行なえなかったものについても、その代替として実施したオンラインによる聞き取り調査など、現時においても可能な手段で調査を進め、研究成果として著書の刊行に至っている。 一方で、現地でしか把握できない事象の調査については、未実施であるために、調査の遅れが生じている。 実践的な研究においては、取り組んでいる山形クリエイティブシティーセンターのオープンを9月1日に控え、そのデザインやマネジメントのプロセスの中で収集されるデータにより、研究を次のページに進める。公民連携により拠点整備とエリアリノベーションとの連結の実験を進めながら、それに伴う効果を検証する。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの事例研究、さらにはそれをベースとした実践的研究により、以下の点が把握された。 1.エリア・リノベーションが加速、定着するときに公共空間のデザインとマネジメントが大きな鍵を握っていること。2.公共施設を公民連携で活用する場合の手法、そのバリエーションが日本においては未熟であること。3.現行の日本のシステムではデザインとマネジメントが分離されがちであること。4.既存のPFIは経営主体が施工者優先になりがちで、地域のプレイヤーの闊達な参画が阻害されていること。5.エリアマネジメントやその中核をなす公共空間において、デザインとともにそこをマネジメントする組織のつくり方、経営手法のモデルを必要としていること。 これらから、エリア・リノベーションにおける公民連携の適切なあり方として、仮説として考えられるのは、民間主導・行政支援型のプロジェクトを組み立てていくことをなし得た場合である。2022年度は、この仮説を実践的研究に落とし込んだ「山形クリエイティブシティーセンター」の運営が開始される。自らが施設の運営主体となり、そこでの実践をメタレベルで客観的に検証、分析を行う。公民連携による拠点整備とエリアリノベーションが掛け合わされることにより、地域のプレイヤーや企業がより綿密に関与するプロセスの重要性が明らかになってきた。さらに、拠点が産業を生み出し、経済循環を起こすことが、より高い持続可能性をもたらすことが予想されている。今後は、実践を通してその仕組みをさらに詳しく検証し、発見された方法論が他都市にも展開可能なものなのか検証に入る。また、並行して、日本の状況を海外事例と比較し、相対化するために、ニューヨーク公立図書館、ヘルシンキの図書館(オーディー)などの上記の観点における先駆的な海外事例を継続して調査する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
昨年度から続いている新型コロナウィルスの影響により、予定していた海外調査のすべて及び国内調査の一部が行なえなかった。よって次年度使用額が生じる。また、予定していたヘルシンキの図書館等への取材も、ヨーロッパの状況に応じ渡航の可否を判断する。 ただし、当初計画を達成するために、調査の計画そのものを2022年度に繰り越して使用する予定であるが、2022年度も現地調査に支障がある場合は、海外事例はオンラインでの聞き取り調査、国内事例は可能な範囲で行うものとする。
|