本研究は、農住組合法施行以前の農住利子補給法により建設された初期農住賃貸住宅とその周辺地区を対象に、農地や低未利用地などの土地利用の実態と、土地所有者の初期農住賃貸住宅の経営状況や農地についての将来意向を把握し、都市農地保全を図る際の現行制度の課題や都市近郊での農地保全のあり方を考察することを目的とした。 2022年度は、これまで調査してきた3大都市圏の調査地区の多くで開発時期に土地区画整理事業などが併用されていてリバース・スプロールの兆候は見られなかったため、地方都市(高松市、下関市、豊橋市、静岡市)において同様に初期農住賃貸集合住宅が建設された地区について、都市農地の現状把握および郵送によるアンケート調査を追加実施し、農地所有者の将来意向等を把握した。 研究期間全体を通じて、3大都市圏および地方都市の計13の対象地区の都市農地の残存状況とその所有関係およびに農地所有者の課題意識ついて、非専業農家による農地の小規模化や不動産活用の実態等農地保全に関して脆弱な現状を把握した。一方、新規住宅立地(賃貸を含む)が進む地区も多く、人口減少等によるリバース・スプロールよりも、従来同様、開発圧力に基づく宅地化による農地喪失の懸念が依然強いことも明らかになった。農地保全に関しては、市民農園化による保全方法を有望視しているが、調査対象地権者に市民農園経営者が存在しなかったため、愛知県内自治体による市民農園開設支援施策の現状と課題の把握にとどまった。 他方、農住賃貸住宅の経営では、3大都市圏の対象地区について既発表論文に示したように、開発当初数カ所で見られた複数住棟の所有者による集団経営はほとんどが解散・休眠して個人経営に移行しており、今後管理不全が生ずる脆弱な側面も示唆され、不動産事業者や農協による支援の重要性など、既往研究で把握できていなかった現状と今後の方向性を明らかにすることができた。
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