研究課題/領域番号 |
19K04773
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研究機関 | 東北工業大学 |
研究代表者 |
大沼 正寛 東北工業大学, ライフデザイン学部, 教授 (40316451)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 生業場 / ルーラルワークプレイス / 生業景 / 地技 / 持続可能性 / 地域資源 / 近現代史 / 活用保全 |
研究実績の概要 |
本研究は、地域環境資源を活かした生業を成立させている「場」(=生業場)をひろくルーラルワークプレイスと呼び、その近現代史を事例的・類型的に解明・記述することを第一の目的、またそれらの活用保全するための要件を考察・導出することを第二の目的としている。初年度は、このルーラルワークプレイスの定義を再考・明確化するとともに、具体的な事例調査を4例実施し、副題である近現代史と活用保全の要件に照らして考察を深めた。具体的には「陸前地方(宮城および岩手県南)における天然スレート建材の産業史と家並み景観をはぐくむ建築・工芸の生業場」「宮城県丸森町における蚕糸絹業の生業場」「海浜の製鉄産業町における新たな鉄工ものづくりの生業場」「宮城県大崎耕土(世界農業遺産関連エリア)における農家・食産業・温泉宿場町の共創事例と生業場」について調査を行った。調査数としては4例に及び、研究計画においては3例としていたことから一定の進捗には至ったが、どのように生業場の多様性を整理し、再定置するかは今後の課題と考えている。いずれにせよ、域内閉鎖的で歴史的伝統的な手仕事等を復古的に再評価するといった志向ではなく、流動的な近現代史の観点で調査してきており、移動手段、動力、商業化など、考現学的で進行形の状況を記録・考察しようとしていることは重要であると考えている。また、東日本大震災後の東北地方を主なフィールドとして情報収集してきた面からは、これらがどのように活用保全されうるか、ある種の過酷な状況が考察上の適地となる一面を有している。ただ、2019年秋期の豪雨災害、2020年春期のコロナウイルス問題により、フィールド調査の制約が少なくないことから、進め方や調査対象を再考する必要にも迫られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画調書に記した当初の3例を超えた4例の調査に着手したことで一定の進捗に至っている一方、調査手法、データ整理には未完成点を残しており、事例の再定置にもさらなる考察が必要といえる。以上のプラス点、マイナス点を相殺し、上記の「順調に進展」に何とか漕ぎつけた、という(厳しめの)自己評価をすべきと考えている。 ただ、現地で具体的に生業場の実例空間を確認することのできる方々との知遇を得ることができている点は重要で、研究申請時よりも調査依頼の候補となる方々との人脈は広がってきている。これは、本研究の前身となった科学技術振興機構助成による「農山漁村共同アトリエ群による産業の再構築と多彩な生活景の醸成」を進めてきたことによるところが大きい。ソフトウェア=生業そのものの継承発展を企図したこの前身研究に対し、ハードウエアとしての建築資産群を調査研究対象としたことで、明確に内容を棲み分けるとともに、生業そのものへの理解を先行させたことで、ルーラルワークプレイスを環境総体として理解するための定位・描画・解釈のスキームを考察することができたことは、総合的にみて初年度の進捗を一定程度進めることができたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画においては、3年間で10例のルーラルワークプレイスに関する事例調査を重ねるとしており、通常の状況であれば事例調査数を増やし、考察の深化をめざすところであるが、今般のコロナ・ショックにともなうフィールド調査の困難さは、現時点では見通しが立たない状況にある。今後の推進方策として、前身研究にて得た知遇をもとに、遠隔から得られる情報を少しでも入手・整理したうえで、適時を探して短時間のインタビュー調査を行ったり、対人インタビューを伴わずに生業場の観察をしたりと、これまでにない課題に対する対応の検討を余儀なくされている。基本的に中小零細企業等の生業場が対象になることから、調査者らの衛生的措置や、対象資産に対する調査後の衛生管理も求められよう。このため、研究費の使途として、フィールド調査の頻度を限定的にするほか、衛生器具の購入や防具の入手、調査協力者との相互理解のための多様な配慮に充てることも、必要に応じて再計画したいと考えている。こうした意味で、予定通りの現地調査を10例敢行するのか、現地調査をやや減じつつ遠隔インタビュー調査を加味するのか、再検討の必要がある。いずれにせよ最終年度ではないことから、あるべき軌道修正を早急に行い、推進していく所存である。 また一方で、このコロナショック後の時代においては、これまでよりも自立的・自律的な生業の重要性が再評価される可能性も浮上しており、研究目的そのものはむしろ貫徹すべきであるともいえる。このことを調査協力者とも意識共有することで、同等の成果に近づきたいと考えていることも付記したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
使用予定額に大きく達しなかったものとして、主に物品費、人件費がある。前者は、劣化のはやいPC機器類を更新しつつ、新たな空間調査の備品環境を具備しようというものであったが、調査を遂行しながら必要物を検討購入すべく慎重に進めていたものである。後者は、上半期が別の前身研究の最終年度にあたり、学生謝金等をそこから充てたことで一時的な余剰が生じたものである。 上記はいずれも、2年目に使用予定であって、とくに前者においては、コロナショックに対するフィールド調査備品の再検討が必要となっていることから、劣化した情報機器類の更新とも照らしあわせ、緊急かつ優先度の高いものの購入を検討していく予定である。また後者は、本研究と連動した内容を探求する予定の大学院生が進学してきたことから、この者のアルバイト謝金を主要な使途とし、活用させて頂く予定としている。 なお、総額としては旅費を大きく残しており、これは研究計画上は2年目ないし3年目において、一定の調査成果を携えて海外比較調査を行う計画としていたが、これもコロナショックによって遂行可能性が揺らいでいる。よって場合によっては上記物品費に準じ、まずは最重要であるフィールド調査の安全衛生確保に必要資金を充てることとしたい。
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