研究課題/領域番号 |
19K04775
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研究機関 | 明海大学 |
研究代表者 |
斎藤 千尋 明海大学, 不動産学部, 教授 (30235048)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 建物配置の予測 / 不確実な市街地の表現 / まちなみの予報 / 基盤地図情報 / 3D都市モデル / 多変量正規分布 |
研究実績の概要 |
①並列計算フレームワークでの開発 前年度に作成した基盤地図情報の建物外周線、道路縁データを用いた建物配置予測プログラムを3DデータであるAW3Dの建物データを用いるように開発を進めた。作業としては、JavaScriptで開発していたプログラムをJavaに書き換えた。また、並列計算フレームワークであるApache Sparkを用いて、並列計算で建物配置予測を行う開発を行った。AW3Dの建物データは、第3次メッシュで25メッシュ分を購入している。範囲としては、浦安市でデータが整備済みの範囲と、連続するメッシュで江戸川区の範囲である。比較的広域に渡る建物データを並列計算により処理できるようにすることに作業を集中した。 ②市街地の建物配置予想図の描画の高速化 対象とする範囲が広くなり、建物配置予想図で描画する建物量が増大するに従い、前年度のプログラムで用いていたp5.jsでは速度的に能力不足になってきた。この対策として、パソコンのGPUを利用して描画を高速化するライブラリを用いるようにした。具体的にはブラウザ上での建物配置予想図の描画にp5.jsに替えてThree.jsを用いた。結果として、1メッシュ(1平方km程度)の建物量では遅延なく描画できるようになっている。 ③不確実な市街地像の描画のモデルの検討作業 前年度のシミュレーションのモデルでは単純な正規分布で隣棟間隔、後退距離を設定することから、不確実な市街地像の描画を行っていた。これに対して今年度は、建物面積・高さや用途地域指定、緑被状況に応じたより現実的な隣棟間隔、後退距離の確率分布により、建物配置のシミュレーションを行うモデルを検討した。また隣棟間隔、後退距離の再現を目的とした回帰分析ではなく、相関のある乱数により、予測する建物の高さ、方位などを同時に決定するモデルを検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
並列計算フレームワークにより25メッシュ(約25平方km)の街区、建物を同時に処理することを目標として開発をしてきたが、計算のチューニングに手間取っている。1メッシュ程度については問題なく処理できるが、メッシュを増やした場合に計算を終了させられない計算ノードが発生し計算に失敗している。 またこの問題の解決を優先しているため建物の面積にばらつきのある街区や、空き区画のある街区などの不規則な建物配置に対して安定して予想配置を描画する処理に着手できなかった。 また、Plateauの建物の3Dデータの利用も検討したが、複数のデータフォーマットに対応する余力がなかった。
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今後の研究の推進方策 |
①並列計算プログラムの完成 安定して25メッシュの建物、街区データを同時処理できるよう、Apache Sparkにおける計算の並列度のコントロールパラメータであるパーティション数、エグゼキュータ数、計算ノードのメモリ量の組み合わせを調整するとともに、異常なデータに対応できる例外処理を追加する。その上で、個々の建物配置を安定して生成できるよう、適切なバッファの半径の探索処理を強化する。 ②相関のある乱数による予想建物の壁面位置、高さの設定 建物の配置の予想図自体は隣棟間隔、後退距離の設定により周囲の建物や街区のバッファ図形の重なりとして描く。この隣棟間隔、後退距離について、建物の高さ、隣接建物の方位、面積、高さ、緑被の介在の有無、また立地する用途地域等の変数の共分散行列から相関のある乱数を生成するモデルを得る。これにより、隣棟間隔、後退距離などの単一の説明変数を予測するモデルではなく、隣棟間隔と高さ、後退距離と高さなど、相互に相関をもつ値を得るモデルを作成する。 ③3Dデータで得た結果の基盤地図情報での応用 基盤地図情報は広く国内の市街地の建物形状を整備してきたデータであり、また過去のデータの蓄積もある。高さ情報はないが平面形状についてはAW3Dなどの3Dデータと同等のものである。3Dデータで得た統計から、基盤地図情報の建物の高さを便宜的に推定するとともに、関心のある特定の街区については現地での目視やストリートビューにより高さ情報を補完することから、任意の街区においてあり得る将来の建物配置の描画する仕組みを最終成果としてまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額はAmazon Web Serviceの計算機クラスターサービスのElastic Map Reduce(EMR)の利用のためのものである。2022年度中、建物配置の分析の計算の並列化の開発を行ったが、開発が完了せず、まだ実際的な統計分析、シミュレーション作業を行っていないため予定の使用額に達しなかった。 2023年度は、25メッシュ分の建物データを安定して処理するため、クラスター構成と並列度の設定を確立することと、異常なデータがあった場合の例外処理を確実なものとすることを最優先する。 その後、隣棟間隔、後退距離、高さと、建物面積、方位、用途地域、近傍の緑被の有無などの変数の共分散行列を得る統計計算、またこれを基に、相関のある乱数発生によるあり得る市街地像の生成のシミュレーションを行う。なお、EMRで利用するプログラムの開発についてはできるだけテストデータを用い、PC単体で実行するSparkのローカルモードの計算で行うことで、Amazon Web Serviceの課金は節約するようにする。
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