研究課題/領域番号 |
19K04782
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研究機関 | 神戸芸術工科大学 |
研究代表者 |
小浦 久子 神戸芸術工科大学, 芸術工学部, 教授 (30243174)
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研究分担者 |
伊藤 香織 東京理科大学, 理工学部建築学科, 教授 (20345078)
長濱 伸貴 神戸芸術工科大学, 芸術工学部, 教授 (70461134)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 都市再生 / 公共空間 / 環境 / 計画の地域性 |
研究実績の概要 |
2019年度は、ローカルとリージョンの計画をつなぐ計画論の論点を探るため、異なる分野からの知見を交流させる研究集会と研究担当者による事例研究を進めた。 研究集会としては、建築・公共空間・都市・ランドスケープ・経済といった異なる専門分野の専門家による議論の場を企画し、日本建築学会大会において「ローカルな動きを創発編集する都市・地域の計画フレーム」をテーマにした研究集会の開催に協力した。また、その事前準備の研究会での議論をとおして、現在取り組まれている場所や地域での様々な動きを広域につなぐには、LEEDのように異なるスケールに対応する空間や活動を評価する指標の作り方や、エコシステムのように場所と広域環境をつなぐシステムの考え方が必要となることが共有された。一方、広域スケールの計画概念においては、ローカルスケールのマネジメントにつながる取り組みの具体的実践がなかなか見いだせなかった。 事例研究では、公共空間の使い方からの検討(伊藤)、復興まちづくりにおける公共施設の役割(長濱)、計画における地域らしさ(小浦)など、それぞれの専門分野において多くはローカルなデザインからの検討を行った。こうしたローカルな事例においては、人と空間をつなぐコミュニケーション・デザインが地域と都市をつなぐ手がかりとなっていた。 THE HOTSPOT CITIES SYMPOSIUMにおける都市フリンジでの環境デザイン(小浦)が広域からの取り組みであった。これはアーバンフリンジの土地利用変化を指標化する試みであり、生態系へのリスクを確認することで縮退する都市外縁部を広域の環境システムからみる計画の可能性を検討した。 こうした取り組みから、現在の都市の再編や再構築は、ローカルな変化から発生しており、その一方でリージョンレベルでの計画や戦略とローカルな変化とのつながりが見えにくい現状が確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究集会には、当初海外の研究協力者を招聘し、広く研究課題についての論点を広げる場をつくることを想定していたが、企画が遅れ、研究協力者を招聘することが研究集会の日程に間に合わなかった。しかし、海外事例の研究や海外での実践経験も豊富な他分野の専門家を招聘することができ、都市の価値を考えることから、空間や場のハードなセッティングにおいて社会的評価や環境システムの観点を導入することの可能性など、都市の見方を拡張することができた。当初予定とは異なる企画となったが、有効な議論ができ十分の成果をあげることができたと考えている。また、ローカルの実践が中心となっている研究分担者にとって、多様なスケールの事象の捉え方やスケールをこえる視点を得ることができ、スケールをつなぐ評価の考え方やシステムの観点を得ることができたことは重要であった。それぞれが取り組んだ事例研究やデザイン実践を見直していく契機になると考えており、今後の取り組みにつながるものである。 また、研究代表者もこれまでは主にローカルスケールの景観や空間デザインの研究が中心となっており、広域の視点が弱かった。HOTSPOT CITIES SYMPOSIUMの専門家会議における集中討議に参加する機会を得て、関西圏のアーバンフリンジを見直すきっかけとなり、関西の事例を通じてローカルな実践と広域の空間計画課題との相互性を表現するために、リージョンスケールの空間評価の指標を検討することになった。 研究集会および事例研究をつうじてローカルとリージョンをつなぐ計画論の論点確認作業を進めることになったと考えている。研究目的は明快であるが、方法論が難しく、試行錯誤の初年度であったが、一定の成果があったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
粗密化する都市が、どのように都市のダイナミズムを維持しつつ持続可能性を高めていくのか、その計画手法を考えることを目標とし、即地的な変化(ローカルの動き)と都市の再構築(リージョンの視点)をつなぐ計画論を求めている。そのために、既に縮退が進み都市の再構築を進めている先進事例の調査を計画し、ドイツ・ルール地域と米国・デトロイトの地域再生について順次調査することを予定している。ルールは広域のテーマを共有しつつローカルの変化を誘発しており、デトロイトは現場の再生の積み重ねが先行しつつ都市の計画に戦略を与えようとしており、これらの2地域の取り組みにおいてローカルとリージョンの相互性を比較することが有効ではないかと考えている。 2019年度において、その準備のためドイツでの現地打ち合わせを予定していたが、コロナウイルスの感染拡大により渡航ができなくなり、準備が遅れている。ルール地域についてはこれまでも継続的に調査連携をしていることから、オンラインでの打ち合わせや文献資料の収集による準備を進め、社会状況を見ながら、調査の段取りを進める。ただ、コロナウイルス感染状況の推移によっては、海外調査の方法や対象地の変更もあり得ると考えている。 また、2019年度に取り組み始めたローカルの変化の事例検討を継続する。都市の空き地やオープンスペースに着目するとともに、アーバンフリンジの田園地域の環境変容(環境性能における人工化など)など、広域の視点をもった事例検討を進める。各担当者が個別に取り組みを進捗させるとともに、後半で成果を持ち寄り、検討会を行う。1年目の研究集会に招聘した専門家も交えワークショップ等により論点を探っていくことを考えている。 こうした調査および事例研究によって、2年目で、ローカルな実践と広域の空間計画課題の相互性を探るという研究課題に対する一定の論点整理を行うことを目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究集会を学会日程と併せて実施したことから、招聘者の交通費や謝金が一部不要となったことに加え、国内事例調査の検討に時間がかかり、調査交通費の支出が予定より少なかったこと、また、来年度の海外調査にむけての準備作業が遅れ、予備調査の段取りとコロナウイルス感染拡大が重なり、現地打ち合わせを実施できなかったこと等が重なり、研究遂行に必要な旅費の支出を来年度計画において調整することとしたため。また、事例検討の進捗が少し遅れたことにより、調査補助や検討結果のやりとりにかかる費用の支出ができなかった。
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