研究課題/領域番号 |
19K04804
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
光井 渉 東京藝術大学, 美術学部, 教授 (40291819)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 木造建築 / 構法 / 架構 / 寺院 / 民家 |
研究実績の概要 |
本研究は日本の伝統的な木造建築を、架構構法と空間形態の相互関係に基づいて分類整理を行い、その変遷と発展過程の系統樹を提示しようとするものである。こうした研究手法は様式史の手法と近似するもので、実証的な研究手法とは異なる新たな建築史の構築を目指すものである。さらに、この手法によって得られる成果は、遺構の年代判定指標や文化財的価値の論証方法としても使用可能なものであり、同時に歴史的建造物のリノベーションにあたってのガイドラインにも敷衍が可能なものとなる。 本研究の前提となる構法に基づく考察については、これまでも申請者の『日本の伝統木造建築』(市ヶ谷出版、2016年)などを通じて発表し「日本建築学会著作賞」を受賞するなど一定の評価を得たが、研究会などの席ではいくつかの疑義が表明されている。そこで、特に重要で修正が必要であると考えられる以下の3つの小テーマを設定して、研究を実施することとした。 ① 大型寺院建築の改造過程における架構方法の変更の検証(13~17世紀) ② 大型寺院建築の小屋組と軸組の相互関係変容期の検証(15~17世紀) ③ 民家建築(農家)の構造柱移動プロセスと地域性(山梨・北関東・中国山地など) 研究の初年度に当たる2019年度には、①に基づく実地調査を奈良県・和歌山県などを中心に2度実施、②③に基づく実地調査を山梨県で実施し、その成果に基づいて図面を作成し、研究結果をとりまとめた。そして、この調査内容に基づく論考を、日本建築士会連合会の機関誌『建築士』の2・3月号に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、①検討の枠組として、形態の相違と使用者及び制作者の系譜性及び内部空間の特性を重視して、A堂(7世紀以来の技術的な連続性の中で建設され続けた大空間を有する寺社建築)とB農家(掘立柱建造物から発達し、中世末期に高い耐久性を獲得した農村部の建築)に対象を絞り込み、そのそれぞれについて、調査事例を抽出して断面図及び架構図を作成して②架構形式の分類を行い、Aについてはモヤ-ヒサシ構造、Bについては上屋下屋構造を起点とする③変容過程の検討を行うものである。 2019年度には、Aについては、當麻寺本堂・東大寺法華堂・長弓寺本堂・甲府善光寺本堂・大善寺本堂・道成寺本堂・金剛寺本堂・観心寺本堂・善福院釈迦堂、Bについては高野家住宅・広瀬家住宅他の甲府盆地周辺の民家群の実地調査及び図面作成が実施できた。これに、2018年度までに調査を行っていた事例の検討結果を加味して、モヤーヒサシ構造の初期的な変容過程に関する考察を行い、『建築士』2・3月号に発表した。 以上のような進捗状況は、当初予定していた内容とおおむね合致しており、研究計画は順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度においても、2019年度と同様に実地調査を行い、そこで得られた内容に修理工事報告書等の情報を加味して、分析に必要な断面図・架構図を作成し、さらに2021年度の調査対象を前提とした予備調査を合わせて実施していく予定である。 なお、2020年度においては、滋賀県内の中世大型本堂及び東海地方の民家を予定していたが、新型コロナウィルスの感染状況を鑑み、申請者の研究拠点である東京から自動車による移動が可能な関東地方への調査対象の移動を検討中である。
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