本研究は、従来見過ごされてきた「黎明期マンションとはなんだったのか」という「問い」に答えるものである。1950-70年代の、形式の定型化や供給の寡占化が顕著になる以前の時期を「黎明期」と呼び、この時期の民間企業のダイナミズムを実証的に分析した。 2023年度は、第一に「社会にとって、黎明期マンションとはなんだったのか」という課題に対して、法制度の推移を背景とした各社の販売手法を検討し、心情に訴求する広告戦略の変化を新聞広告や販売パンフレットの言葉や図像から導出して、相互の関連を分析した。第二に「建築界にとって、黎明期マンションとはなんだったのか」という課題に対して、黒川紀章や梵寿綱といった個性的な建築家が手がけたマンションの平面構成や断面構成といった計画的な特徴、モダンデザインや南欧風といった意匠の特色などに着目し、各社の方向性、全体としての変遷と相互作用を捉えた。第三に「現在にとって、黎明期マンションとはなんなのか」という課題に対しては、分譲ではないが、同潤会アパートメントや社宅の系譜も比較対象とし、また諸外国の現状を追加調査することによって、歴史的な検討から黎明期マンションの特質を明確化した。 研究期間全体を通じて、これらを通じて、1980年代以前の民間集合住宅に関して、その様態を総合的に示し、社会背景との関係を定位した。加えて、民間企業の多様性や、そこにおける当時の若手建築家の役割に光を当てることで、戦後建築史におけるマンションの位置を鮮明なものとした。
|