2021年度は、東京都内を対象とした資料収集を進めたほか、COVID-19に関わる状況の緩和から、地方における戦前期の建設事例調査を進め、山形県山形市長源寺の追加調査、また福岡県博多市明光寺の現地調査を実施した。明光寺本堂は、大正13年竣工の鉄筋コンクリート造建築であり、設計施工を、重要文化財である本願寺函館別院施工を担当した木田保造が請け負って建設されたものである。大正9年の大火により旧本堂が焼失し、新たに鉄筋コンクリート造にて再建された。昨年、登録有形文化財として登録され、その価値が認められたものである。 福岡明光寺の小屋は鉄骨のダブルフィンクトラスとなっており、鉄骨はかなり薄いL型鋼である。本願寺函館別院はI型鋼の和小屋に近い形式のトラス構造であったのに対し、施工者である木田保造による技術更新が確認される。近い時代における木田による鉄筋コンクリート寺院として、昭和4年竣工の函館称名寺があるが、これも先行研究により、福岡明光寺と同様にダブルフィンクトラスであったことが判明している。 一方で、山形長源寺の追加調査の成果として、不明であった小屋組は、木造の和小屋で建設されていることが明らかになった。地元大工らの設計施工によると考えられる長源寺(棟札から工事関係者氏名は判明している)では、鉄筋コンクリート造の壁面が箱状に作られ、基礎および小屋は木造、垂木などは木をラスとモルタルで覆った形で制作されるなど、前例のない、地方都市での鉄筋コンクリート造伝統建築建設における試行錯誤が随所で確認された。
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