研究課題/領域番号 |
19K04814
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
是澤 紀子 日本女子大学, 家政学部, 准教授 (40431978)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 神社 / 本殿 / 中世 / 近世 / 文化財 / 修理 / 工匠 / 移築 |
研究実績の概要 |
本研究では、中近世の神社を対象として、(1)神社建築を造営した工匠の移動と、(2)神社本殿建築の移動(移築)に着目し、その流通に支えられた神社の再生について建築史学的に解明することである。 今年度は、(1)に関して東海地方および近畿地方を中心として中世神社本殿の造営に関わった工匠に関する資料収集と分析を進めつつ現地調査を実施するとともに、(2)に関して春日大社旧社殿の分布図と移築先の神社本殿のデータベースを作成した。(1)に関しては、とくに畿内では神社本殿の蟇股に着目して、奈良系や京都系の工匠と意匠の特質について整理、分析を行った。従来より指摘されてきたように、蟇股の足元には奈良系と京都系ともいわれる異なる繰形の意匠が見られるが、それら以外の繰形も見出せる。また奈良系や京都系の足元は同一の建物でも合わせて採用されることもありながら、継承されてきたことがわかる。(2)に関しては、現在の春日大社本殿および若宮神社本殿と各地の旧社殿を比較し、建築形態における多様性を整理した。さらに旧社殿の分布から、当時の移築方法が水路によるものであると推測されたことから、河川との位置的関係を探ったところ、大和川水系および淀川水系を中心として、移築された旧社殿は河川の近くに多く分布していることを見出した。また、旧社殿に関する修理工事報告書等により、規模や土台などの形態を比較し、旧社殿の建築形態の特質についてデータベースの作成および分析を行った。その結果、形態には多様性が見られ、それらと比較すると、旧社殿の可能性が推測されてきた円成寺春日堂・白山堂の特異性も見出せた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の進捗状況として、年度末の2~3月にかけては現地調査が実施できなかったことから、それまでに実施できた調査と収集資料をもとに分析を進めた。 (1)神社建築を造営した工匠の移動に関して、今年度は主に以下2つの方法で実施した。まず、資料の収集と現地調査の比較分析については、畿内の神社本殿から修理工事報告書、棟札等工匠記録の収集、絵図等の史資料を収集して分析をすすめている。さらに、神社本殿の現地調査に関しては、主に京都、大阪、兵庫、愛知の調査を実施し、庇部分は後世の修理による改変が多く、修理工事報告書による事前調査を踏まえて現地調査により、正面軸部や細部装飾の新旧部材の確認を行った。 (2)春日大社および若宮社の旧社殿が移築された神社について、主に奈良県に分布する旧社殿の現地調査を実施した。また、奈良・京都・大阪・兵庫に移築された旧社殿の分布図を作成し、河川の変遷やその位置関係をふまえた立地の分析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策として、今年度末に実施できなかった神社本殿の現地調査は、次年度以降に予定している現地調査とあわせて実施することとする。以下、本研究で取り組む2つの研究計画、すなわち中近世の神社を対象とした(1)神社建築を造営した工匠の移動と、(2)神社本殿建築の移動(移築)に対して、各々次のような方針ですすめる。 (1)神社建築を造営した工匠の移動に関しては、引き続き、資料取集と現地調査対象の比較分析を行う。とくに蟇股を中心として、これまで実施してきた畿内の神社本殿の分析について整理するとともに、これをふまえ、中世末期に和歌山、京都で活躍した工匠が造営に関わったことで知られている大崎八幡宮(宮城)の細部意匠と比較検討を行う。 (2)神社本殿建築の移動(移築)に関しては、春日大社本殿および若宮とそれらの旧社殿について、規模や土台など各部分における形態を比較し、旧社殿の多様な特質について分析をすすめる。また、現在の河川と旧社殿の位置にみる相関について、旧河川の位置情報をくわえて調査分析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は比較的早期から現地調査を重ねることができ順調であったが、年度末の2月~3月にかけては新型コロナウィルス感染症による影響を受けて調査が実施できなかったことから次年度使用が生じた。したがって、今年度末に実施できなかった神社本殿の現地調査は、次年度以降に予定している現地調査とあわせて実施することとする。
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