本研究は、修験道建築について、1)各霊山における分布と現在の状況、2)建物の外観及び間取り・空間構成、3)建物内での儀礼の場の構築のされ方、の3点を明らかにすることを目的とし、修験道が生み出した建築・空間の特質を探るものである。そして、神・仏の二分で語られてきた日本の宗教建築研究に新たな視点を提示し、また教義、機構など理論面が先行する修験道研究において物的・空間的な表出を示すことで信仰の全体像を把握できるようにする意義を持つ。本研究は現地調査と史料調査によって進めた。現地調査は、大峰山(令和元年度)/羽黒山、葛城修験(令和2年度)/英彦山、立山、石鎚山(令和3年度)で行った。コロナ禍により実施順を当初計画から変更し、補助員を動員した詳細調査はできなかったが、建物の特徴は記録・検討できた。史料調査は公開資料を中心に、建物、修行内容、儀礼の次第に関する記述を抽出、分析した。そして、修験道建築遺構の残存数・認知数は少ないこと、建物・空間は奥行を持つ空間の最奥面を壁とし、その前に仏壇・祭壇を設けて出入口は前方に設ける特徴があること、屋内の儀礼の場の空間ヒエラルキーは奥が高く手前に向かって低くなるよう構築されること、を目的各項に対して示した。 令和3年度は、現地調査で修験道建築の特徴を確かめ、文書史料から修験儀礼の場の検討を行い、最終成果をまとめた。今年度の現地調査においても、これまでに修験道建築の特徴と見ている要素を持つ遺構を確認した。また、英彦山の坊院では、儀礼を行う部屋に前記の特徴を認められることを見出した。また、史料調査・研究では、諸山での修行記録等から、修験者集団内の構成員の順位によって建物内の座所が決まっており、これと奥行のある空間との相性がよいことが確認できた。これが修験道建物・空間の形態の特徴を生み出した理由と考えられ、この成果は日本建築学会大会で発表予定である。
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