研究課題/領域番号 |
19K04816
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研究機関 | 長崎総合科学大学 |
研究代表者 |
山田 由香里 長崎総合科学大学, 工学部, 教授 (60454948)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 対馬の石屋根 / 椎根の石屋根倉庫 / 島山石 / 写真家・仁位孝雄氏 / 高松松平別邸・披雲閣 / 清水組 / 文化財修理設計技術者・井上梅三 / 韓国と対馬壱岐の石文化 |
研究実績の概要 |
2021年度の研究成果は以下の4点からなる。 第一に、対馬の石屋根倉庫の調査である。長崎県文化財「椎根の石屋根倉庫」を中心に、石置屋根と平柱の構法は、韓半島の影響を受けていると仮説を立て、現地調査を行った。韓国の研究者によると、石置屋根は韓半島にもあり、広義の石文化も韓半島と対馬壱岐は共通する。平柱は倉庫の堅牢性のために対馬で生み出された構法である。 第二に、1978年の対馬の石屋根倉庫245棟を撮影した写真家・仁位孝雄氏に、聞取り調査を行った。仁位氏の協力を得て、1977年の航空写真に石屋根の場所を記録した。2022年の石屋根の現存数を現地確認したところ、36棟(15%)に激減した。仁位氏の撮影フィルムは、貴重な記録資料である。石屋根撮影フィルムの価値が認識され、2022年4月開館の対馬博物館に収蔵された。今後、韓日の研究者に活用される。 第三に、大正から戦前にかけ、李王垠をはじめ、皇族・華族の高松来訪時の迎賓施設として利用された高松松平別邸・披雲閣(重要文化財、1917・大正6年)の資料調査である。香川県立ミュージアムと高松市教育委員会の所蔵資料から、清水組による見積書と城内整備、三大行幸啓(大正11年・英国皇太子来賓、同年・摂政宮大本営、大正12年・久邇宮家良子王女来賓)の建物の使い方、蘇鉄の間の家具調度が明らかになった。調査成果は、2022年秋に披雲閣蘇鉄の間で、展覧会を通じて周知される予定である。 第四に、1941年に清州神社(忠清北道)を手掛けた文化財修理設計技術者・井上梅三(1864-1963)が、1918~1921年に千葉・房総で手掛けた神野寺表門・本堂・楼門と那古寺観音堂の調査である。両寺とも、近年、再度の修理工事を実施し、資料や古写真を探索していた。それが井上梅三資料に含まれていた。井上梅三資料は、2022年度に松江歴史館に収蔵され、広く活用される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は、長崎及び日本国内において仁川の建築と都市に関する史資料調を行い、成果をもとに、仁川で官舎と住宅の現地調査を行う計画であった。 しかし、新型コロナウィルス感染拡大によって仁川への渡航が叶わず、日本国内の移動や資料調査も制限を受けた。これで、2年間連続で、予定していた調査を実施できなかった。 代わりに、現地調査受け入れの特別許可を得た、対馬の石屋根と高松城の披雲閣の調査を実施した。計画していた仁川での現地調査は進まなかったものの、仁川―長崎の文化交流の周辺部を充実させる成果は得られた。 仁川において調査を進める当初の調査計画はやや遅れているものの、関連調査は進展し、貴重な写真フィルムや建築資料の博物館寄贈や、調査成果を活かした展覧会開催などに結実した。成果そのものは社会的に大きな意義をもつ。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、新型コロナウィルス感染拡大による国外への移動制限は続くだろう。 よって、2021年度の成果として2022年度に予定する、文化財修理設計技術者・井上梅三の建築資料の整理と松江歴史館への寄贈、披雲閣蘇鉄の間における展覧会開催は、関連研究として実施する。 朗報は、モダン長崎に関する資料を所蔵する長崎県立図書館郷土資料センターが、2019年から建て替えのために閉鎖し、資料も見られなかったが、2022年春に開館した。長崎における資料調査が再開できる。モダン長崎の建築と都市の検討を先に進め、渡航できる時期を待ちたい。 また、長崎が、19世紀末の韓国カトリック再布教期に重要な役割を果たしていたことを、専門分野の研究者から2022年4・5月に御教示を得た。仁川-長崎居留地研究の重要な一面であり、この点も注目したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大により、韓国・仁川に渡航できず、現地調査が実施できなかったためである。今後、渡航が可能になったら、旅費として使用する計画である。
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