研究実績の概要 |
最終年度であり5年度目である2023年度は,文献資料の調査に基づく議論の分析と現地調査に基づく建築空間像の分析の両面で研究を進め,各調査に基づく分析の総合を目指した。 文献資料の調査に基づく議論の分析について,20世紀前半のドイツにおける新しい郷土像の追求に関する雑誌上の議論の経過と傾向の析出を進めた。2023年9月にドイツに渡航し,ベルリン州立図書館,ベルリン州立美術館,ベルリン工科大学図書館等を訪ね,本研究で主な調査対象とする雑誌のうち,『Die Bauwelt』と『Der Baumeister』に重点を置いて網羅的に閲覧し,雑誌記事の追加調査・収集をおこなった。併せて議論に関係しうる文献資料の調査・収集をおこなった。また,日本国内の大学図書館や国会図書館等でも,雑誌記事はじめ文献資料の調査・収集を補った。国内外での文献資料の調査を通じ,『Die Bauwelt』ほか雑誌出版社による展覧会の開催やカタログの刊行もまた,新しい郷土像の追求に関する議論を把握する上で注目に値する事績であることを把握するに至った。 現地調査に基づく建築空間像の分析について,上記2誌に加えて『Der Staedtebau』や『Stein, Holz, Eisen』の雑誌等で新しい郷土像に関する議論の俎上にのる,ガルテンシュタット・ファルケンベルクやジードルンク・シラーパーク等,ベルリン市内のジードルンクを現地踏査し,住宅や住宅地の具体的な開発手法や応用事例を基に建築空間像の分析を進めた。 さらに,ドイツでの新しい郷土像の追求に関する議論の展開を検討するため,同時代の日本国内での議論に注目し,昭和戦前期に建築学会が刊行した山田守著『ジードルンク』(1933),大正初期に日本の建築界へセセッションを導入紹介した洪洋社刊『世界建築 様式図解』や『セセッション圖案集』に着目して研究発表をおこなった。
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