最終年度に実施した研究の成果:「デコール」の同時代的展開: 昨年度からの継続課題であるアトリエ・ル・コルビュジエに在籍した建築家のなかでも、シャルロット・ペリアンにおける「デコール」の展開を研究した。「装備」という新しい「装飾(デコール)」概念が、ペリアンにおいてさらに空間における身振りという主題にまで敷衍されること指摘した。身振りを誘引する装飾という主題は、ペリアンにおける独自の主題設定であるが、そこには日本の民芸運動との関連も認められた。一方、1929年から戦後にかけて、建築家・装飾家・芸術家(いわゆるインテリア・デザイナーの当時の呼称)の協働を掲げたUAM(近代建築家同盟)はペリアンらを中心として「フォルム・ユティール」(有用な形態)という主題を設定して、建築(壁)・家具とは異なる「デコール」の新しい仕掛けを考案した。この主題設定においては構造躯体としての「壁」の概念と壁との分離がますます困難となり、一つの環境として空間を理解しようとする理念が認められた。
研究期間全体を通じて実施した研究の成果: 建築作品における「装飾(デコール)」の近代性という主題について、その変容の見取り図を叙述することができた。結節点となるのはル・コルビュジエであるが、少なくとも「デコール」の史的展開はル・コルビュジエに最も影響を与えたオーギュスト・ペレに遡ることができ、ル・コルビュジエを経由して、シャルロット・ペリアンらにおいて建築/装飾の二元論を解体するような理念として引き継がれていく。そこに通底する主題は、ペレにおける「肉」、ル・コルビュジエにおける「装備」、ペリアンにおける「身振り」として表現される身体性の問題である。その意味で、20世紀における「デコール」は、ウィトルウィウス的な建築論の伝統を引き継いでいるとも言える。
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