近世九州地方の神社等にみられる彫物(建築装飾)は、優れた表現や技法が、他地方よも早くからみられる傾向があるので、その伝搬経路を検討した。 熊本県球磨地方にみられる意匠性の高い薄肉彫は、湯前町の御大師堂須弥壇羽目が最古例で、制作した関東常州住の権大僧都・賀吽(頼源)は、常州真言宗・雨引山楽法寺に関連する僧とみられるので、意匠・技法は関東からもたらされたことになる。太宰府からの伝搬を跡付けられなかったが、鹿児島の龍柱にはやはり琉球や大陸からもたらされた可能性が想定される。また、熊本北部の大彫物は18世紀以降新たな展開をみせ、大分市には大型パネル状彫物を採用した江戸初期の事例も新たに見いだされた。
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