研究課題/領域番号 |
19K04827
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
内田 青蔵 神奈川大学, 工学部, 教授 (30277686)
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研究分担者 |
須崎 文代 神奈川大学, 工学部, 助教 (20735071)
安野 彰 日本工業大学, 建築学部, 教授 (30339494)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 同潤会 / 勤め人向け分譲住宅 / 佐々木家文書 / 赤羽分譲住宅 / 住宅展覧会 / 荻窪分譲住宅 / 広報事業 |
研究実績の概要 |
本研究は、戦前期にわが国で最初に公的住宅供給事業を展開した財団法人同潤会の木造分譲住宅事業に注目し、これまで明らかにされている文献資料とともに住宅遺構の調査成果による基礎資料を加えた多様な資料を整理・分析し、同潤会の木造分譲住宅事業の総合的評価を行うことを目的としている。 研究期間は3年間で、最初の1-2年目は、文献資料ならびにこれまでの既往研究の整理をもとに沿革史を作成し、併せて、基礎資料となる悉皆調査をもとに許可を得た遺構の実測調査を行うことを予定している。 これまでの既往研究に用いられた基礎資料の多くは東京都公文書館蔵の「内田文書」に準拠している。そこで、今回は、新たな資料の収取をめざし、同潤会の木造分譲住宅事業を行った地区の資料館も調査した。その結果、これまで学会等では報告されてこなかった赤羽分譲住宅地を中心とした同潤会資料である「佐々木家文書」の存在を確認することができた。 一方、目視による現地の悉皆調査の結果、同潤会の勤め人向け木造分譲住宅の遺構として14棟、職工向け木造分譲住宅の遺構1棟の存在がほぼ確認ができた。ただ、これらの遺構のヒアリングならびに実測調査は、2020年2-3月の春休みの実施を予定していたこともあり、この新型コロナウイルス騒動で調査は中止せざるを得なかった。そのため、新資料として確認できた「佐々木家文書」の整理ならびにその資料分析に研究をシフトし、同潤会の分譲住宅事業の開始時期における住宅展覧会などの広報活動や入居者決定等のシステムの一端を解明することができた。これらの成果はこれまで知られていなかったもので、実際の分譲時の入居者選定の状況を知ることができたことは、同潤会の組織の特徴を知る上でも貴重な成果と考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既に触れたように、今回、これまで知られていなかった赤羽分譲住宅事業に関する事業を中心とした同潤会関連資料として「佐々木家文書」が入手できた。これをもとに、同潤会の住宅分譲の際に行う住宅展覧会を中心とする広報事業の概要、入居者選定のシステムなどが明らかとなった。とりわけ、新資料では、分譲時に開催された住宅展覧会などの広報活動の詳細、また、応募者や入居者の個人情報もあり、その取扱いは十分配慮しなければならないが、個々人の職業や収入などを基準に入居者選定が行われていたことが推察できた。 また、目視による悉皆調査により、勤め人向け木造分譲住宅の遺構として14棟の存在が確認できた。当初の予定では、許可を頂けた遺構に関しては、実測調査を行うこととしていたが、コロナ禍により、春休みに予定していた実測調査の機会が失われてしまった。そのため、当初の予定を変更せざるを得なかった。しかしながら、調査は次年度でも可能であり、新資料の入手による資料整理も行うなど、概ね研究は進んでいるものと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
遺構の実測調査を行う目的のひとつには、住宅平面を採取するためであった。すなわち、同潤会の行った勤め人向け木造分譲住宅事業で建設された住宅に関する基礎資料である住宅平面は、これまですべて明らかにされているわけではなく、いまだ不明な平面形式もあるのである。そのため、これまで同潤会の分譲住宅の特徴の一つとして、平面形の多様性が指摘されているものの、具体的なバリエーションやその平面形式の特徴を厳密に分析した研究はいまだ未着の研究ともいえるのである。そのため、こうした平面形の多様性を明確化するためにも、また、通時的な平面形式の変容過程を明らかにするためにも、遺構をもとに不明な平面形を収集し、それらを加えながら平面形全体を俯瞰し分析を行うことが求められるのである。また、全体を俯瞰することにより、初めて平面形の変遷過程の解明が可能となり、また、どのような住宅がめざされたのか、などの住宅像の解明が可能となるものと考えている。くわえて、遺構調査により、住宅の質や空間性など住宅の評価に係る追体験が可能となるものと考えている。 以上のことから、次年度は、初年度に予定しつつも実施できなかった実測調査を行い、平面形の分析を中心に研究を進めたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
目視による実測調査の後、実測の依頼を兼ねたアンケート調査を行う予定であったが、このコロナ禍の関係で、春休みに予定していた実測調査ができないため、アンケートも中止した。実測調査は、次年度に回すこととし、その作業のための予算を残したことにより、次年度使用額が生じた。 一方、新資料としての「佐々木家文書」を確認できたため、その資料の電子化という新たな予算が生じた。そこで、アンケートのための予算を一部電子化の費用に充てた。そのため、当初のアンケート用費用よりは、少ない額の繰越金額となった。
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