研究課題/領域番号 |
19K04829
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
藤田 勝也 関西大学, 環境都市工学部, 教授 (80202290)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 住宅 / 寿命 / 前近代 / 住宅観 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、前近代日本における支配者層の住宅について、竣工から終焉にいたる寿命に注目し、その実態を詳細に解明することにある。具体的な論点はおもに次の5点である。 第一に、住宅の寿命はその性格を反映することから、とくに居住者の階層性と寿命の関係について追究する。第二に、寿命の長短、終焉の要因には、住宅の個性に加えて住宅をとりまく社会的・文化的要因の関与の可能性がある。都市災害・自然災害のほか、移建・解体といった人為的要因の実態を詳細に検証する。第三に、寿命の平均値とその変化を追究する。寿命のトレンドが周辺環境、社会状況に依存することに留意し、その実態を明らかにする。第四に、前近代の住宅の寿命に関する言説を通して、住宅観を読み解く。そして第五に、寿命をめぐる寺社の建築との比較検証を行う。とくに邸の寺院化、建物の仏堂化と寿命の関係に注目して詳細に検討する。 上記の目的を遂行するため、関係史料の博捜・整理の作業をすすめる中で、「某寝殿図」と仮題され、通説では中世宮廷の建物を描いたものとされてきた古図について、そのような通説は誤っており、実は江戸時代の摂関家の一つ九条家の本宅にあった寝殿一郭を描いたものであるという新事実をつきとめた。その成果は「「某寝殿図」について」と題して、日本建築学会で公表した(2019年度日本建築学会近畿支部研究発表会)。この古図の存在はまた貴族社会が生み出した平安京における都市の住宅様式である寝殿造が、きわめて長い「寿命」を保ってきたという事実を裏打ちするものであり、彼らの住生活における伝統墨守があらためて確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は前近代日本における住宅の寿命の実態解明であり、支配者層の住宅として古代に初発する公家の住宅、中世以降にあらわれる武家の住宅について、寿命の実態を詳細に明らかしようとするものである。そこで本研究の目的にてらして設定した課題の一つは、住宅の存続期間と終焉の要因ならびに、時代的傾向の全体像の把握。二つ目は、寿命に長短をもたらす修理や改修の履歴、それを反映する住宅の個性の解明、さらに三つ目に、寿命をめぐる住宅観の実態解明である。 それらの課題にこたえるためには、公刊史料の博捜・整理・分析が中心となるが、とりわけ史料の収集は本研究の前提である。古代・中世については日記類がすでに活字化され、また近年の研究であらたに翻刻・活字化されたものもある。しかし近世以降については貴族や寺社の日記類をはじめなお未公刊の史料があるほか、当該研究に関連する史料として古文書もその対象として欠かせない。それらについても収集と整理の作業を鋭意行っている。 本研究の最終的な実績報告のためには、上記のごとく収集・蓄積しつつある関係史料をもとにした分析と考察に、今後、本格的に取り組む必要があるが、初年度を終えた現時点では、本研究はおおむね順調に進展しているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度に引き続いて関係史料の調査・収集をさらに継続、深化させる。またそれら関係史料をもとにした検証と考察の作業を行う。これまでの研究経過(前項、現在までの進捗状況を参照)を踏まえ、とくに次の2点に焦点を絞って集中的に研究を推進する。 第一は、平安京における貴族住宅の竣工と終焉に関する実態把握と分析である。これまでのところ、終焉の要因は火災が圧倒的多数を占めるようであるが、自火か類焼か、火災の面的規模や程度などその内実を明らかにし、時代傾向を分析する。また他邸への移徙あるいは新造のための解体・取壊しの事例では短命な傾向にある点は注目される。それには当時の貴族社会の住宅観が反映している可能性があり、その検証と分析も課題となる。 さらに関連して第二に、平安京における貴族住宅の竣工から終焉までの間になされる修復・整備に関する実態把握と総合的かつ詳細な分析がある。史料では内裏や院御所という用途に顕在化するようだが、その詳細の把握は大きな課題である。 上記について、データの蓄積作業をすすめる中で、適宜、時期と地域の区分を試みることで、寿命の傾向把握につとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末近くではあるが、本研究は新型コロナウィルスの影響を受けてしまった。しかし納品は次年度にはいって後、しかるべき時期に完了し、支払い手続きが行われる予定である。また史料の閲覧・収集のための国内出張についても関係機関の休館や外出自粛要請などによって予定をキャンセルせざるを得ない事態が発生したが、これについても次年度以降、問題が解消され次第、再開する。したがって令和2年度の交付額は計画通り支出執行する予定である。具体的には、史料の閲覧と収集のための出張旅費、関連史料・文献の購入費のほか、史料整理のための人件費(謝金)や史料収集と情報交換のための交通費そして、研究の成果がまとまった際には、学術誌への登載料など研究成果公表のための経費(その他)が発生し、それらに支出する予定である。
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備考 |
藤田勝也「中野家住宅―幸せな邂逅と転生―」『住宅建築』no.478 2019年12月号
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