研究課題/領域番号 |
19K04835
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
宮路 幸二 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (60313467)
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研究分担者 |
川村 恭己 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (50262407)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 自励振動の高速数値計算 / 不連続応答の応答曲面 |
研究実績の概要 |
航空機設計における翼の空力弾性連成振動(フラッター)の予測は、航空機の性能と安全性を決定する非常に重要な項目である。実飛行や風洞実験では安全性の確保が難しく、高精度な数値計算による予測を援用することが必要不可欠である。本研究では、2つの新たな手法を開発することにより、フラッターの数値解析の効率と信頼性向上を実現する。 1つ目は、従来用いられてきた時間発展法に替えて、新たに時間スペクトル法によるフラッター解析手法を開発することである。時間スペクトル法は、周期変動する流体問題の高速解法として開発されたが、これを連成振動問題に拡張した。まず、翼の弾性変形を伴う多自由度振動でなく、剛体の一自由度振動に限定し、特にデルタ翼のロール軸周り自励振動(ウィングロック)に着目した。新たに導出された流体と翼の運動の支配方程式では、連成の結果定まる振動数が予め分からない。そこで、仮定する振動数で得られた連成解から計算される運動方程式の残差を、振動数の関数とみなし、これを最小化する振動数を勾配法により求めた。計算時間は時間進行法の約半分に短縮され、特徴的なローリングモーメント変化も再現できた。 また、2つ目は、計算条件や流体・構造モデルのばらつき(不確実さ)がフラッター解析結果に与える影響の定量的評価である。特に遷音速では、不確実さによってフラッターの安定境界は大きく変化するため、不連続な応答を適切に予測する手法が必要である。そこで、さまざまな解像度と多項式次数を持つ、マルチウェーブレットを基底関数とする応答曲面法を開発した。遷音速翼流れにおいて、マッハ数と迎角がともに不確実さを持つ問題に適用し、モンテカルロ法や従来の応答曲面法と比較して、衝撃波の移動に伴う翼面圧力の急激な変化を、低い計算コストで良好に予測することができた。 今後、それぞれの手法を高めると共に、それらを統合してフラッター問題に適用する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記した通り、本研究課題には2つの重要な要素課題があり、それぞれにおいて、本質的な進展が得られた。 まず、流体の周期問題に対する高速解法である時間スペクトル法は、本研究以前に開発していた。本研究の初年度では、これを流体と剛体の連成振動問題に拡張した。特に重要な技術は、方程式の未知数でない(解かれない)振動数を定める方法であり、周期解に至ったならば0となるべき運動方程式の残差を最小化するという方針は、今後実施する空力弾性問題にも有効と考えられる。実際の振動数付近であれば、適当な初期振幅から計算開始しても、繰り返し計算の結果、正しい振幅に収束する結果が得られた。振動数は翼の運動エネルギーに直結することから、上記の運動方程式残差だけでなく、一周期中に翼が気流から受けるエネルギーも、周期解を得るための指標(評価関数)に用いられることが示された。 もう一つの要素課題は、不確かさ解析である。不確かさを考慮しない(決定論的な)支配方程式が、時間スペクトル法で表した空力弾性方程式となることから、不確かさ解析では、更なる計算コードの改変を伴わない(non-intrusiveな)手法を用いた。できるだけ少ない解析実行回数から、複雑な応答曲面を適切に構築する方法が必要であり、マルチウェーブレット基底を用いた。解像度(レベル)の変わる場所での不連続な接続に課題が残るものの、複雑な応答曲面を良好に再現している。 それぞれの成果の意義は高く、計画初年度であるが、学術雑誌に発表するとともに、国際会議に参加・発表している。
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今後の研究の推進方策 |
1. 流体単独の問題では、時間スペクトル法により、1/10程度まで計算時間の短縮が実現されたが、(剛体との)連成問題ではそれほどの効果が得られていない。次年度は、更なる高速化の方法を探る。現在は、それぞれの支配方程式を交互に解いて、必要な情報を交換する弱連成解法を用いているが、全体を連立する強連成解法が可能か検討する。
2. 上記の手法を、空力弾性問題に拡張する。構造の多自由度問題では、従来の時間進行法でも用いられるモード法により、固有モードに分解した後に、時間スペクトル法の式を導出する。
3. マルチウェーブレット基底を用いた応答曲面の実用性を高める。解像度と区間多項式の次数、さらに不確かさの次元が増えると、必要な解析実行回数が飛躍的に増加する。多くの係数が0に近いとの前提に基づく圧縮センシングの技術を用いて、基底関数の数よりも少ない解析実行回数での応答曲面の構築を可能にする。
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