本年度は,CFRP材料に対して固相内での炭素繊維を通した熱伝導を考慮した燃え拡がりモデルを構築し,炭素繊維の交差角,酸素濃度および周囲流速が燃え拡がり速度,火炎長さ,予熱距離に与える影響を予想し,これらを実験結果と比較した.当初のモデルにおいては,周囲流速の増大に従って火炎高さが線形的に小さくなるものとなっていたが,消炎距離の概念を導入してモデルを修正したところ,燃え拡がり速度および限界酸素濃度の予測値を実験結果と定量的に一致させることに成功した.また,固相内熱伝導率が気相熱伝導率に比べて十分に大きい条件においては,熱分解領域における固体内温度分布はCFRPの含侵樹脂の熱分解温度付近に漸近することで交差角度の影響が小さくなる一方で,予熱距離は交差角の増大に伴い減少することが分かった.交差角が大きい条件においては,試料の横方向への伝熱も無視できないため,ISSにおける宇宙実験においてはCFRPのような材料に関しては試料の保持方法にも十分注意を払う必要があることが分かった.全体として,CFRPのような複合材の燃え拡がりに対して,現象を定量的に予測できるモデルが構築でき,物理的に薄いが固相内熱伝導を無視できない材料に関する燃え拡がりの知見が得られた.また,本年度はISSにおける軌道上実験が実施され,ろ紙を試料とした実験結果が得られた.この中で,ろ紙の燃え拡がりにおける限界酸素濃度が,本テーマの研究者が提案しているモデル式で予測したものと定量的に一致することが分かった.また,周囲流速が極めて遅い条件においては,予測された可燃曲線の外側に3次元的な火炎を形成して比較的長時間火炎が残る興味深い現象も観察され,このような状況における燃焼機構を今後の継続テーマ内で明らかにしていく予定である.
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