研究課題/領域番号 |
19K04843
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
野村 浩司 日本大学, 生産工学部, 教授 (30246847)
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研究分担者 |
田辺 光昭 日本大学, 理工学部, 教授 (90291707)
菅沼 祐介 日本大学, 生産工学部, 講師 (60739035)
齊藤 允教 日本大学, 理工学部, 准教授 (20801020)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 噴霧燃焼 / 冷炎燃え広がり / 燃料液滴列 / 予蒸発予混合燃焼器 / 微小重力環境利用 |
研究実績の概要 |
航空機用ガスタービンのNOx排出量削減や高熱効率化は急務な課題であり,こうした背景から進められているコアエンジンの小型高出力化や希薄予混合燃焼方式の導入は,どちらも燃焼器における逆火現象を誘発しやすい.噴霧火炎基部で起こる燃料液滴間の火炎燃え広がり現象を把握することが燃焼器の設計要件を明らかにするためには必要である.本研究では,噴霧火炎基部や燃料予蒸発管内で起こりうる燃料液滴の冷炎点火・燃え広がりに着目し,噴霧を単純化した燃料液滴列を対象にし,基礎的な研究を行った.軸対称な火炎燃え広がりが実現される微小重力環境を利用した実験を行うことで,数値シミュレーションの検証を容易にする計画である. 2020年度は,2019年度に製作した熱線式定温度型冷炎強制点火装置を用い,通常重力場において冷炎のデカン燃料液滴列上方火炎燃え広がり実験を行った.冷炎燃え広がり速度計測を行うため,高速度ビデオカメラを用いた.高速度ビデオカメラには微弱光である冷炎は写らないので,バックリット光学系を用いて液滴直径履歴を計測し,液滴直径の変化が液滴列に沿って伝播するその伝播速度から冷炎燃え広がり速度を計測した.冷炎の発生を確認するため,ホルムアルデヒド発光波長に感度のあるフォトトランジスタを設置した.大気圧,室温,液滴直径0.6mm,液滴間隔2 mmの条件で正デカン液滴列上方火炎燃え広がり速度は9 mm/s程度であり,熱炎の燃え広がりに比べて非常に遅いことが明らかとなった.液滴直径履歴から求めた燃焼速度定数とフォトトランジスタの出力より,液滴の周囲は冷炎が取り囲んでいることが確認できた.数値シミュレーションについては,計算領域を実験装置に一致させ,実験結果と計算結果の比較が容易にできるように準備を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
微小重力実験を考慮した点火装置の改修と冷炎燃え広がりを観察する光学系の開発を行った.液滴列支持器に熱線を設置するため,熱線の長さ,および形状の変更を行った.単一燃料液滴を用いた点火実験を行い,冷炎が発生することを負荷電流出力から確認した.冷炎観察装置については,これまでイメージインテンシファイア付き高速度カメラを用いてきた.しかしながら,イメージインテンシファイアは振動に弱く,微小重力実験には適さない.そこで,UVシリコンセンサを用いたホルムアルデヒド自発光の検出デバイスを開発した.UVシリコンセンサを信号増幅回路に組み込み,冷炎検出が可能であることを確認した.また,バンドパスフィルタを用いることで,点火装置からのノイズをカットして冷炎の発光のみを検出し,十分なS/N比が得られることを確認した.冷炎点火装置,液滴列支持器,液滴列生成装置,液滴列移動装置および燃え広がり観察装置を組み合わせて,通常重力環境における上方冷炎燃え広がり実験を行った. 数値シミュレーションに関しては,計算領域を実験装置に合わせ,実験結果と計算結果の比較が容易にできるように準備を行った.実際の燃焼器寸法は119×57であるが,計算負荷を減らすため,計算領域は液滴列軸を軸対称境界とする1/2領域とした.計算領域の外周は断熱壁境界とした.液滴の初期直径は1.0mmとし,液相領域を9個所設けた.計算では,液滴表面での熱流束の差から蒸発量を陰的に求め,気体状態のデカンをフィルム層から湧き出させることで蒸発を模擬した.そのためのフィルム層は,液滴表面から厚み40ミクロンで設定した.液滴の蒸発量から,液滴の後退量を求め,液滴表面の境界を移動させることで蒸発に伴う液滴径の変化を模擬した.点火領域は液滴表面から1mmの位置に設定し,この領域に熱の生成項を加えることで液滴への点火を模擬した.
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今後の研究の推進方策 |
実験装置の組み合わせ試験が終了したので,昨年度に引き続き,地上で予備実験を行う.その後,学内の小型落下塔(微小重力時間:1.1 s)を使用して微小重力実験を行う.ただし,昨年度の地上実験の結果から,低い雰囲気温度での冷炎燃え広がり速度は非常に遅く,1.1 sの微小重力実験では雰囲気温度が高い条件の実験に限られることがわかっている.比較的雰囲気温度の低い条件の微小重力実験は,北海道のコスモトーレ落下塔(微小重力時間:2.5 s)を使用して微小重力実験を行う計画であったが,コロナ禍の状況に注視して実施か延期の判断をする. 微小実験では,燃料液滴列を瞬時に高温空気室に挿入した後に実験装置全体を微小重力状態にし,列の一端の液滴を定温度型冷炎点火装置で加熱して冷炎点火を起こさせる.燃料には正デカン(ケロシンの模擬燃料)を使用する.発生した冷炎が燃料液滴列を燃え広がるかどうかを確認し,燃え広がった条件では燃え広がり挙動の観察と燃え広がり速度の計測を行う.バックリット法を用い,高速度ビデオカメラで液滴を観察する.各液滴の液滴直径履歴を求め,履歴の液滴間での遅れから火炎燃え広がり速度を計測する.実験パラメータは以下を予定している. 〇雰囲気温度・圧力 〇無次元液滴間隔(=液滴間隔/液滴初期直径) 〇点火用微小電熱面温度 雰囲気温度・圧力に依っては,冷炎の燃え広がりが起こっても,二段点火により途中から熱炎の燃え広がりと複合することが充分に考えられる.この燃え広がり形態も一つの冷炎燃え広がり現象としてとらえる. 以上の実験データについて,雰囲気温度・雰囲気圧力・無次元液滴間隔に対する冷炎燃え広がり速度のマッピングを行う(野村,菅沼担当).得られた結果は研究分担者が開発した数値シミュレーションの検証に用い,未だ不確定な値が数多く残る中間生成物の輸送係数の調整などを行う(田辺,齋藤担当).
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次年度使用額が生じた理由 |
国際シンポジウムに参加するための旅費として24万円を予算計上していたが,コロナ禍が収束せず,シンポジウムが延期になったため,次年度使用金が発生してしまった.次年度の使用計画は,国際会議が相次いでOneLine開催になっているので,北海道落下塔での微小重力実験の旅費に充当し,実験補助者を1名増やすことで現地での実験を効率的に行う計画である.
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