研究課題/領域番号 |
19K04875
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研究機関 | 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 |
研究代表者 |
山口 良隆 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, その他部局等, 研究員 (20344236)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 光触媒 / 防汚効果 / 越境生物防止 |
研究実績の概要 |
船体付着によるグローバルな生物の越境移動が、世界的な関心事となり、その対策として、主に防汚物質を含有した防汚塗料が船体に使用されている。しかし、シーチェスト等のニッチエリアへの生物の付着防止について、現在の方法では、完全な対策が難しいとされている。そのため高性能な防汚システムの開発が期待されている。そこで、本研究では、陸上や淡水中で高効率な防汚効果があるチタニア光触媒に着目した。しかし、海水中でのチタニア光触媒の利用例は、非常に少ない。その理由として、光触媒は太陽光を利用することを主眼としたものが多く、さらに光触媒作用に必要な波長が、海水中で大きく吸収されるためである。そこで本研究では、船体のニッチエリアにおける光触媒の利用を考えて、定常的に光照射が可能な人工光を利用した光触媒の防汚システムについて研究を行う。 本年度は、主に海水中におけるチタニアの光触媒作用について確認を行った。光触媒にはチタニアを使用し、海水には人工海水を使用した。光源には、超高圧水銀灯を使用した。さらに、海水中で光触媒作用による有機化合物の分解度合いをモニターするために、インジケーターとしてメチレンブルー(MB)を使用した。試料溶液中のMBについては、紫外可視吸光光度計で計測した。結果として、光照射を行った場合に、照射時間とともにMBに起因する吸光度のピークが減少し、海水中でも、チタニアに光触媒効果があることを確認した。さらに海水中と水中で光触媒効果の違いの確認を行った。結果として、水中の方が触媒活性は高く、塩の影響で光触媒作用が変化することを確認した。 このようにチタニアが海水中で光触媒作用を持つので、付着生物に対する防汚効果の可能性が期待できる。今後、チタニアを用いて藻など生物に対する防汚効果について天然海水等を利用して検証を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度の主な目標は、海水中において、チタニアで有機物を分解する等の光触媒効果の確認を行うことであった。本研究において、メチレンブルー(MB)を溶解した海水にチタニアを入れて、紫外光を照射した場合に、MBの減少が確認できた。そのため今年度の目標は達成され、おおむね順調に進展していると考えられる。 本年度は、まず初めにチタニアの光触媒効果を確認可能な実験系を作製し、実験手順や解析方法について検討を行った。光触媒効果を確認する実験系では、照射部に超高圧水銀灯、触媒反応部には、マグネティックスターラーで溶液試料を撹拌可能な石英セル、分析部には紫外可視吸光光度計をそれぞれ使用した。光触媒試験の手順は、次のとおりである。既知濃度のMBを溶解させた人工海水を調整した。光触媒効果を確認するための有機物分解に関するインジケーターとしてMBを使用した。海水試料と光触媒を石英セルに入れて、マグネティックスターらで海水試料の撹拌をしながら光照射を行った。照射時に、照射時間ごとの海水試料中のMBの紫外可視吸収スペクトルを計測した。分解の解析は、MBの特有な光吸収波長の吸光度変化に着目した。紫外光の照射時間が長くなるとともに、MBの特有な吸光度が減少した。この結果から海水中でのチタニアの光触媒効果の確認ができた。 また同じ照射条件において、海水中と水中でのチタニアの光触媒効果の比較を行った。結果として、水中の方がMBの減少が速かった。そのため、水中の方が海水中より触媒効果が高いことがわかった。この理由として、触媒効果に関係のある波長の光が海水に強く吸収されることや塩による触媒への阻害効果の可能性が考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
チタニアには、ルチルやアナターゼ等のいくつかの構造がある。それぞれのチタニア構造において、海水中の光触媒効果の検証を行う。さらに各構造での光触媒活性について比較を行い、活性が高いものについて調査を行う。実験で得られた光触媒活性が高いチタニア光触媒を中心に天然海水に入れて、可視光や紫外光等を照射し、藻類などの生物の発生が抑えられるかについての試験を行う。 さらに船体を模擬したシーチェストの模型を作成する。実験用のシーチェスト模型には、海水ポンプで海を模擬した水槽から海水を吸上げ、さらに模型内に触媒を固定し、さらに光照射の機能を取り入れた形で作製を行う。このシーチェスト模型においても、光触媒効果で内部に藻類など付着生物の発生が抑えられるかについて実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
ニッチエリアのひとつとしてのシーチェストがあり、設計を含めてシーチェストの模型の作製に関する計画も含まれていた。2019年度では、シーチェスト模型に関する機能や内部構造の調査や概念設計を行った。その中には、模型内への光触媒の設置方法や光照射方法についても実施した。そのため、ある程度シーチェスト模型の作製を行える状態になっている。模型全体の作製の前に、触媒や光照射に関する箇所等の一部を試作的に作製することを考えていたが、次年度へ持ち越すこととなった。模型の全体作製を実施する中で、この項目も取り入れていく。この研究項目は、2019年度と2020年度の2年間で実施する計画である。この計画分の予算は、2020年度で使用する予定である。
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