船体に付着した生物が、船の地球規模の移動により、違う生息エリアの海洋生態系への影響を及ぼすことが懸念されている。一般に、船体へ生物の付着を防ぐ主な手段として、Biocideを含有した塗料が使用されている。しかし、シーチェスト等の凸凹のあるニッチエリアへの生物の付着防止について、船底塗料での対応が難しいとされている。そのため、ニッチエリアでも有効な防汚システムが必要であり、開発が期待されている。そこで、本研究では、陸上で効果的な防汚性能があるTiO2光触媒に着目し、海水中において利用可能なTiO2光触媒について基礎的な研究を実施した。海水中にTiO2光触媒を入れて、有機物を分解するために紫外光照射を行った。対象となる有機物はメチレンブルー(MB)を使用した。船体のニッチエリアでの利用を考慮し、人工光を使用して定常的に光照射が可能な光触媒の防汚システムを目指して研究を実施した。 本年度は、海水中と水中における、TiO2光触媒を使用した場合のMBの分解過程を解明するために、各反応条件で得られた紫外可視吸光度スペクトルの解析を行った。MB吸光度スペクトルの約665 nmに得られるピークトップについて、光触媒を入れた場合に、光照射時間に対するスペクトル減少の挙動を比較した。結果として、海水中と水中でのMBの吸光度スペクトルは、減少時に異なるの挙動を示した。また、ルチル、アナターゼ、ブルッカイト及びP25の各TiO2光触媒を使用した場合の違いについては、海水中と水中で反応速度定数は異なることが多かった。しかし、海水中と水中において、それぞれ類似のスペクトルの変化を示した。得られた結果から、TiO2光触媒について、同一の水質の場合に、MB分解の反応速度はTiO2の種類が大きく影響すると考えられる。一方、分解の反応メカニズムについては、水か海水の溶液の種類が大きく影響することが示唆された。
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