本研究課題は、1990年代の電力・ガス自由化以降のエネルギー企業を対象に、イノベーション創出への取り組み(インプット)と成果(アウトプット)を再定義し、生産効率性評価手法を新規に提案し実証分析に応用することを目的としている。生産効率性の時間的変化や企業間差異を計測することでイノベーションの可視化手法を検討する。 近年脱炭素社会に向けて注目されているグリーンエネルギー技術や環境技術、送配電網管理のためのデジタル技術の獲得を、M&Aによって達成しようとする大手エネルギー企業のイノベーション戦略を踏まえ、世界の大規模エネルギー事業者のM&A取引件数を説明変数に、生産効率性を被説明変数に用いて両者の関係を分析した。課題となっていた説明変数の有意性は、データの見直しや分析モデルの改良により一定程度改善した。分析結果から、生産効率性は企業間、地域間で有意な差異が見られるものの、時間的な変化には有意な差異が見られなかったこと、またM&Aの増加が生産効率性の向上に必ずしも結びついていないことが示された。 また企業の年次報告書や経営方針を記した各種公開文書、企業のCSRや環境への取り組み度合い、環境関連国際イニシアチブへの参加度合いなどの定量情報および定性情報から、テキスト分析や多変量解析を用いて主要要素を抽出・整理し可視化する方法を提案した。生産効率性分析にテキスト分析や多変量解析を組み合わせて用いるこれらの試みについては、異なる2つの企業データによって研究を実施した。これらの研究は、生産効率性評価に用いることのできる変数に新たな可能性を提示するものであり、今後のさらなる発展も期待できる。
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